今年5月、スコットランドにある名門ゴルフコース、ミュアフィールドで、女性会員を受け入れるかどうかの会員投票の結果、これまでと同様に女性会員を認めないという結論を下したことを受け、R&Aはミュアフィールドを全英オープン開催コースから除外したと報道されています。
世界では、男性メンバー限定だったゴルフクラブが次々と女性メンバーを受け入れる方針に変更しています。平成24年にはオーガスタナショナルGC、平成27年にはロイヤル・セント・ジョージズが女性会員を受け入れると発表し、平成26年にはゴルフの総本山R&Aも女性メンバーの受け入れを決めました。
一方、ミュアフィールドに限らず、女性が入会できないゴルフクラブも依然として多く存在しています。
このように、性別を理由に、ゴルフクラブへの入会を制限することは許されるのでしょうか。また、国籍や人種だとどうなのでしょうか。この問題については過去に本誌でも取り上げましたが、再度検討します。
会社の採用の場合
憲法14条1項は「法の下の平等」を定め、人種や性別に基づく不合理な差別を禁じています。
そして、国家権力を規制する憲法規定の私人間(私企業や個人間の契約など)への適用について、判例・通説は、私的自治や契約自由の原則、私的団体の結社の自由等との調和の観点から、私人間に直接適用されないが、公序良俗違反(民法90条)や不法行為による損害賠償(民法709条)などの解釈・適用において、憲法規定の趣旨を間接的に考慮すべきであるとしています。
この点に関する著名な判決として、三菱樹脂事件判決があります(最高裁昭和48年12月12日判決)。
これは、入社試験時に学生運動歴等を隠していたことを理由に本採用を拒否された原告が、憲法が保障する思想信条の自由や法の下の平等が侵害されている等と主張して、雇用契約上の地位確認と賃金支払いを求めたという事件です。
この事案で、最高裁は、企業者は契約締結の自由を有し、いかなる者を雇い入れるか等について、法律その他による特別の制限がない限り、原則として自由に決定することができ、企業者が特定の思想、信条を有する者をその故をもって雇い入れを拒んでも、当然に違法とすることはできないと判断しました。
すなわち、解雇の場面とは異なり、どのような人物を採用するかについては、会社の自由が広く認められるというわけです。
特に、「傾向企業」或いは「傾向経営」をしているといわれ、特定の思想信条を有している企業では、結社の自由、私的自治が強く認められます。例えば、ある政党の機関紙を発行する新聞社が、その政党の主義主張と全く相容れない言動をとっている者を排除したとしても、やむを得ない判断といえるでしょう。
クラブの自由裁量
クラブはその成り立ちからして閉鎖的・排他的なものです。ゴルフクラブはあくまでも私的な団体にすぎず同好の士の集まりであり、前述の傾向企業に近い性質を有しています。
そこでゴルフクラブには基本的に私的自治の原則が妥当し、個別具体的なケースにおいて、形式的には個人の自由や平等が害されているように見えても、その態様や程度が社会的に許容しうる限度を超えない限り、違法ではないものというべきです。
そして、入会審査というのは、当事者間でこれから継続的な関係を構築するという場面の問題です。メンバーの除名という場面とは異なり、基本的にはゴルフクラブに自由な裁量が認められるというべきでしょう。
裁判所も、ゴルフクラブがある者の入会を認めるか否かは、そのクラブの自由な自主的裁量的判断によって決すべきで、社会的に許容しうる限度を超えない限り公序良俗違反とはならない、と考えています。しかし、具体的事情によっては、入会拒否が違法とされた例も散見されます。
入会拒否を合法とした裁判例
- Cカントリークラブ事件(東京高判平成14年1月23日)
A氏は日本で生まれた韓国人です。株主会員制のCカントリークラブは外国人の入会を制限していました。A氏はそのことを知りながら株式を取得し、名義書換を請求しましたが、クラブはこれを拒否しました。
そこで、A氏は、理事会決議の無効確認と譲渡承認を求めて訴えを提起しました。
原審の東京地裁は、ゴルフクラブはゴルフを楽しむための単なる私的な団体で、ごく閉鎖的なものであり、入会が認められなくても投下資本を回収することは容易であると述べ、理事会決議の無効確認については、争い方が迂遠であるとして訴えを却下し、譲渡承認請求については棄却しました。
A氏はこれを不服として控訴しましたが、東京高裁も、東京地裁の判断を是認した上で、結社の自由の重要性を説き、外国人の入会制限は違法でないとして控訴を棄却しました。
入会拒否を違法とした裁判例
- Hカントリークラブ事件(東京高判平成27年7月1日)
B氏は、性同一性障害により男性から女性へ性別変更しており、これを理由に入会及びゴルフ場経営会社の株式譲渡承認を拒否されました。
そこで、B氏は、Hカントリークラブとゴルフ場経営会社に対して慰謝料等の支払いを求めて訴えを提起しました。
クラブ側は①性同一性障害者(性転換者)の入会は、会員(特に女性会員)がロッカールーム、浴室等を使用する際などに不安感を抱き、クラブ競技の出場資格などに疑義を生じ、親睦、交流のクラブ目的に反する結果となる、②50年以上皆で築いてきたクラブの親睦、交流の一体感を傷つけたくない等と主張しました。
しかしながら、裁判所は、性同一性障害が本人の意思に関わりなく生ずる疾患であることが社会的にも認識されており、被告らが構成員選択の自由を有することを考慮しても、憲法14条などの趣旨に照らし、社会的に許容しうる限界を超え、違法であると判断し、原審の静岡地裁浜松支部、東京高裁ともに、慰謝料100万円、弁護士費用10万円の損害を認めました。
本件は、医学的疾患である性同一性障害が問題となった特殊な事例であって、①B氏が戸籍のみならず声や外性器を含めた外見も女性であったこと、②B氏が女性用の施設を使用した際特段の混乱等は生じていないことからすれば、被告らが危惧するような事態が生じるとは考え難いこと、といった事情が影響したものであって、一般化することは困難であろうと思われます。
性別や国籍、人種による制限
上記のとおり、基本的にクラブの自由な自主的裁量的判断によって入会の拒否を決すべきで、社会的に許容し得る限度を超えない限り違法ではないと考えられます。
では、性別や国籍を理由に入会を制限することは、社会的に許容し得る限度と言えるのでしょうか。
①性別による制限
新たに女性を受け入れるとすれば、着替えをするロッカールームやシャワールームは女性専用とせざるを得ないため、そのための設備を整えなければならず、大きな負担となることが容易に予想されます。
このような観点から、女性を全く受け入れない、或いは一定の人数まで受け入れるに留める、という判断をしたとしても、一定の合理性が認められると考えられます。
また、伝統的に男性中心に形成されてきたゴルフクラブのクラブライフや伝統的価値を守りたいという要望もそれなりに合理性を有すると言えましょう。この反面、女性だけのクラブも許されることになります。
②国籍や人種による制限
親睦を目的として結成されたゴルフクラブに、生活習慣や価値観が異なり、意思疎通が十分に図れない人物が入会したり、クラブ内部に外国人だけのグループができたりすれば、クラブの和が乱されたり、雰囲気が壊れたりすることが懸念されます。そこで、そのような事態を引き起こすおそれがある外国人を受け入れないという判断にも一定の合理性があると考えられます。
国籍による制限は、平等の観点から疑問はあるものの、現在の社会情勢の下では、社会的に許容される限度をただちには超えず、通常は違法ではないと考えてよいと思われます。
これに対し黒人は不可というような人種による制限は、人種差別を許さないという社会通念に照らすと、社会的な許容限度を超え、違法とすべきものと思われます。
③年齢による制限
ジュニアゴルファーの育成はゴルフ界の重要テーマであり、JGAもこれに積極的に取り組んでいます。
しかし、クラブのメンバーとして入会を認めるかは別問題です。例えば30歳以上というような入会資格を設けることも、クラブの落ち着いた雰囲気やクラブライフを維持していく上で許される措置であり、年齢による入会制限は、社会的に許容される限度を超えず、違法ではないと考えられます。
④職業・所属団体による制限
一定の職業の従事者や所属団体に属する者の入会を一律に拒否することは、社会的な許容限度を超え、違法とされる恐れがあると思われます。
とは言え、職業や所属団体は人格や挙措動作に影響を与えるものなので、個々の人物を判断する際にこれらを有利にも不利にも斟酌することは裁量の問題として許容されます。
なお暴力団の構成員や準構成員の一律排除については、合理性があり社会的な許容限度の範囲内であるとすることに異論はないと思われます。
公の競技開催コースの場合
以上のとおり、プライベートなゴルフクラブが性別や国籍を理由に入会を制限することは、法的には原則的に許容されるものと考えられます。
しかしながら、JGA主催競技等、公的な競技の開催コースの場合には、以上に述べたクラブの自由裁量を広く認める考え方が妥当するのか疑問なしとしません。日本オープン等のJGA主催競技は、公益財団法人のJGAや公共放送のNHKが共催する公的色彩をもつものであり、その開催コースが国籍や性別の差別を許容しているとすると、そのようなコースを会場に選んだJGAの見識が問われかねません。スポンサーからも批判の声が上がるでしょう。また、当該イベントによる収入やスポンサーからの支援等、会員から以外の資金が投入されます。このような観点からは、国籍や性別による差別を許容するクラブは、JGA主催競技開催コースとしてふさわしくないということになると思います。
冒頭の全英オープンの開催会場の問題もこの文脈で理解されるべきものです。USGAやUSPGAツアーでは、人種や性別による入会制限のあるクラブでの競技は行わない方針です。女性の入会制限があるパインバレーGCはコース評価は世界トップクラスですが、このところ全米オープンの会場にはなっていません。
入会審査基準の制定と開示
女性や外国人が入会可能かどうかという問題は、会員権業者にとっても重要な関心事であり、業者からの問合せがあった場合、実務的には、ある程度の回答をしている例が多いものと思われます。
しかし、ゴルフクラブが入会審査基準をどこまで明確に開示するかは本来クラブ側の自由であって、開示することは義務ではありません。入会を拒否する場合であっても、その理由を開示する必要はありません。無用な紛争を防ぐためには、入会審査結果に関しての具体的な判断理由は一切非開示と定めておき、入会希望者から理由非開示についての承諾を取っておくことが妥当でしょう。
「ゴルフ場セミナー」2016年8月号掲載
熊谷綜合法律事務所 弁護士 熊谷 信太郎