昨年7月1日に再生可能エネルギーの固定価格買取制度(以下、「本買取制度」)が開始され、1kwを42円で買い取ることが決まり、ゴルフ場の跡地や計画用地、余剰地にメガソーラー基地を建設する動きが相次いでいます。
昨年7月1日から、平成17年以降クローズしていた榛名CC(群馬県)の跡地に建設された発電所が、ゴルフ場の跡地や計画用地を利用した初のメガソーラー発電所として、運転を開始しました。
年間予想発電量は約268万kwh/年(一般家庭約740世帯分の年間電力消費量)で、買取予想価格は1億1256万円/年です。
また、昨年12月26日付で、「マイクロダイエット」などオリジナル健康食品で有名な化粧品販売会社のサニーヘルス株式会社が、福岡空港GC(福岡県)の固定資産(ゴルフ場用地とクラブハウス)を取得する契約を株式会社A・Cホールディングスと締結したと発表されました。
報道によると、サニーヘルス株式会社は、今後ゴルフ場として営業はしない方向で、太陽光発電事業を行っていくと説明しているようです。
一時閉鎖し営業再開を目指していた既設ゴルフ場が、メガソーラーの基地になる動きもあります。
東日本大震災でコース等に被害を受けた会員制のラフォーレ白河ゴルフコース(福島県)は、復旧工事を行い営業を再開する予定でしたが、再開せず、昨年6月、メガソーラーの発電所の建設を計画していると発表しました。
再生可能エネルギーの固定価格買取制度
バブル経済崩壊後、預託金償還問題が顕在化し、加えてリーマンショック以後の経済の低迷や会員の高齢化、価格競争の激化等により各ゴルフ場は厳しい経営を強いられており、倒産件数も増加しています。
ゴルフ場は他の事業への転換が困難なため、徹底した経営合理化などの経営努力によってなんとかゴルフ場として継続している所が多く、仮に倒産してもスポンサー企業がゴルフ場事業を継続しており、廃業閉鎖に至っているゴルフ場は全国で15コース(平成22年現在)にとどまっています。
そんな中、廃業後のゴルフ場跡地だけでなく、経営が困難な状況に陥ったゴルフ場の用地の利用法として、メガソーラー(1000kw以上の発電)の発電所としての利用が注目されてきた訳です。
本買取制度は、再生可能エネルギー(太陽光、風力、水力、地熱、バイオマス)を用いて発電された電気を、一定価格で電気事業者が買い取ることを義務付けた制度です
本買取制度で売電するためには、事前に設備認定を受ける必要があります。設備認定とは、法令で定める要件に適合しているかを国が確認するものです。
具体的には、設置場所エリアを管轄する経済産業局に対し設備認定の申請手続を行い(申請書等は経済産業省資源エネルギー庁のHPからダウンロードできます)、国から発行される認定通知書の写し等を添えて、売電を希望する電気事業者との間で契約を締結することになります。
本買取制度の注意点
本買取制度においては、「物価その他の経済事情に著しい変動が生じ、又は生ずるおそれがある場合において、特に必要と認められる場合」(電気事業者による再生可能エネルギー電気の調達に関する特別措置法3条8項。以下、「法」)には変更される可能性があるものの、とりあえず10年以上にわたって買取が保証されており、設置・運用コストと売電収入を計算すると、通常は10年かければ利益が出ると言われています。
買取価格と買取期間は、毎年度、年度開始前までに、経済産業大臣により告示されます(法3条1項)。
なお、「『物価その他の経済事情に著しい変動』とは、急激なインフレやデフレのような例外的な事態を想定しており、このような場合以外には変更されない」と説明されています(経済産業省資源エネルギー庁HP)。
ゴルフ場の廃業
ゴルフ場を廃業し用地をメガソーラーの基地に転用しようとする場合に問題となるのが、会員制ゴルフ倶楽部における会員との関係です。
会員制ゴルフ倶楽部の大半は預託金制を取っていると思われますので、以下では預託金制ゴルフ倶楽部を念頭に説明します。
会員は、ゴルフ場経営会社との会員契約に基づき、ゴルフ場経営会社に対し、預託金償還請求権とプレー権(優先的施設利用権)を有しています。
そこで、ゴルフ場経営会社がゴルフ場を廃業する場合には、会員との会員契約を解除するとともに、会員に対して預託金を返還し、倶楽部利用の対価である年会費についても本来月割りで返還する必要があります。
会員契約のような集団的な役務提供契約においては、集団的処理の必要性から、契約(会則等)に倶楽部の解散に関する規程があれば解散による契約の終了が認められますが、もし会則に解散の規定がなければ民法等の一般法によって決することになり、無制限に解散が認められるわけではありません。
例えば、同じく集団的役務提供型の契約であるスポーツクラブが閉鎖された事案において、東京地方裁判所平成10年1月22日判決は、会員契約の解除が債務不履行に当たることを前提とした上で、「経営会社の経営努力にもかかわらず、経営成績の悪化、会員数の減少、施設の老朽化、競合スポーツクラブの開設等により、経営の継続が困難となったために行われたなど判示の事実関係の下においては、右解除は、やむを得ない事情によるものであり、会員契約上の債務不履行に当たらないというべきである」と判断しました。
また、会則に「クラブ運営上やむを得ぬ事情のある場合」に解散できるという定めのある預託金制ゴルフ倶楽部において、ゴルフ場経営会社が経営悪化のためゴルフ場を閉鎖したことに対し、会員が優先的施設利用権の侵害である等として、ゴルフ場経営会社に対し、損害賠償請求をした事案において、東京高裁平成12年8月30日判決は、
①「クラブ運営上やむを得ぬ事情のある場合」とは、会員にとって不利益を伴うゴルフクラブの解散をゴルフ場経営会社の機関(理事会)の決議のみによってすることを是認するに足りる客観的かつ合理的な事情の存する場合をいう。
②その要件該当性の判断にあたっては、ゴルフ場経営会社側の会社運営上の事情のみならず、会員が受ける不利益の程度及びその不利益をできるだけ少なくする観点からのゴルフ場経営会側の配慮の程度などの事情をも総合して判断する必要がある。
とし、このまま事業を継続すればゴルフ場が破綻し会員は施設利用権のみならず預託金償還請求権も失ってしまうものとして、解散の有効性を認め、会員からの損害賠償請求を否定しました。
預託金の返還
なお、預託金の全額返還が困難である場合には、破産手続や民事再生手続等により預託金返還債務の減免を受ける必要が生じます。
これらの法的倒産手続においても、役員の責任に基づく損害賠償請求権の査定制度を導入しており、法的倒産手続を経たからと言って、業種の変更が無制限に認められるわけではありません。
第三者が取得するケース
以上に対し、第三者がゴルフ場用地を競売により取得したような場合や、ゴルフ場経営会社から買い取り、会員との会員契約を引き継がないような場合には、会員契約の解除の問題はクリアすることができることになります。
もっとも、無制限に認められるわけではなく、例えば資産の移転が濫用的会社分割にあたるような場合には(本誌2012年12月号)、用地の取得が詐害行為として取消される可能性もありますので注意が必要です。
地主との関係
次に、ゴルフコースの地主との賃貸借契約の内容の確認も必要です。
土地賃貸借契約では、用途をゴルフ場の使用などに限定している場合が多く、「ゴルフ場用地として賃貸する」ことが契約内容となっている場合には、他の用地への転用は解除事由となる可能性があります。
もっとも、賃貸借契約のような当事者間の信頼関係を基礎とする継続的契約においては、形式的に解除事由があったとしても、信頼関係が破壊されたと言えないような場合や、解除の行使が権利の濫用と認められるような場合には、解除権の行使は制限されるという判例法理が確立されています。
このように、地主からの解除が無制限に認められるわけではありませんが、事前に地主に対して丁寧に事情を説明し、契約を巻き直すことが必要です。承諾料の支払いや原状回復義務の具体化などを求められることもありうるでしょう。
ちなみに、承諾料については、法律上の定めはないので、当事者間の交渉によることになりますが、建物所有目的の賃貸借契約の更新料は、一般に更地価格の5~10%が相場であると言われているので、この金額を目安に地主と契約交渉することになるでしょう。
未払い賃金の立替払制度
倒産してゴルフ場としての営業を廃止し従業員を解雇する場合には、未払いの賃金のうち3か月分は財団債権として一般的な債権者よりも優先的に支払を受けることができます(破産法149条1項)。
しかし、会社の全財産をもってしても未払い賃金に足りない場合もあり、このような場合に、国(労働省健康福祉機構)が、労働者個人からの請求によって、その未払賃金の一部を事業主に代って支払う制度があります。
この立替払いを受けるための要件は、①使用者が1年以上事業活動を行っていたが倒産したこと(中小企業においては、事業活動が停止し、再開する見込みがなく、賃金支払能力がないことを労働基準監督署長が認定した場合も含まれます) 、②労働者が、裁判所への破産申立等が行われた日の6か月前から1年6ヵ月が経過するまでの間にその事業を退職し、定期的な賃金や退職金(退職手当)の未払分が総額2万円以上あることが必要です。
なお、請求期間は裁判所の破産等の決定又は労働基準監督署長の倒産の認定があった日の翌日から起算して2年以内です。
また、立替払される金額は、未払賃金総額の8割(但し、退職日の年齢に応じた限度額を超える場合はその限度額の8割)です。
廃業の届出等
ゴルフ場としての営業のために取得している許認可関係についても、所轄の地方公共団体等に廃止(廃業)の届出が必要になります。
取扱いは各地方公共団体によって多少異なるようですが、例えば、危険物や重油等の取扱については所轄の消防署等に廃業届を提出し、飲食店営業許可については所轄の保健所に廃業届を提出する必要があります。
なお、開発時の開発行為や建築確認関係については、廃業時の届出は必要ないようです。
また、ゴルフ場利用税についても、廃止(廃業)の届出書を都道府県の税務署に提出する必要があります。
「ゴルフ場セミナー」2013年3月号掲載
熊谷綜合法律事務所 弁護士 熊谷 信太郎