熊谷信太郎の「ゴルフ場と差押え」

リーマンショック後の大不況で、ゴルフ場のメンバーが経済的に破綻し、所有する会員権を差し押さえられてしまうという事態が多発しています。

ゴルフ会員権の価値も不況とともに下がってはいますが、会員権市場では依然として相場が立っていて換価性の高い資産と考えられているためです。

そこで、ゴルフ場としては、裁判所から、突然ゴルフ会員権を差し押さえたという差押命令が届いた場合の対処法を確認しておく必要があるでしょう。

また、同様に不況下において、ゴルフ会員権の価値が下がっているため、会員権を市場で売却するのではなく、ゴルフ場に対して預託金の返還請求をするというケースも増加し、ゴルフ場自身が債務者として差押えを受けてしまうという事態も多くなっています。

このように、預託金の返還を求める会員からの強制執行の申立てがあった場合、ゴルフ場としてはどのような対応をしたらよいでしょうか。

さらに、ゴルフ場の会員が破産し、破産管財人が会員のもつゴルフ会員権を差押えるというケースも考えられます(もっとも、この場合は、差押えに至る前に破産管財人からゴルフ場へ連絡がきて、和解に至ることが実際には多いように思われます。)。

今回は、これらの場合の対処法、ゴルフ場と差押えについて説明します。

ゴルフ場と差押えが問題となるケースには、ゴルフ場が債務者である場合と、ゴルフ場が第三債務者である場合とがあります。

(なお、第三債務者というのは耳慣れない言葉かもしれませんが、ゴルフ場の会員に対して債権を有する債権者が勝訴判決等を得て、会員が有するゴルフ会員権を差し押さえたというようなケースにおいて、差押えをなした者が債権者、差押えを受けた会員が債務者、ゴルフ場は第三債務者となります。)

また、ゴルフ場には、預託金制、株主会員制、社団法人制などいくつかの種類がありますが、最も多いものが預託金制ゴルフ場です。

以下では、この預託金制のゴルフ場を念頭において、ゴルフ場が第三債務者である場合、ゴルフ場が債務者である場合の順に、説明していきたいと思います。

 

ゴルフ場が第三債務者となる場合

では、裁判所から突然、ゴルフ会員権を差し押さえたという差押命令が届いたら、どうしたらよいでしょうか。

まず、ゴルフ会員権は財産的価値を有するので、差し押さえて強制執行の対象となることについては、裁判所も認めています。

昭和60年8月15日東京高裁決定は、「本件会員権は、いわゆる預託金会員組織ゴルフ会員権と称せられるもので、抗告人所有のゴルフ場施設の優先的利用権、会費納入等の義務、預託金返還請求権という債権債務から成り立つ包括的な債権契約上の地位であるが、かかる地位は、財産的価値を有し、執行債権の引当てとなる適格をもつものというべきであるから、民事執行法167条1項にいう『その他の財産権』に当たり、同法145条の差押命令の対象となり得ることはいうまでもない。」として、強制執行の対象となるとしています。

 

執行手続の流れ

債権者が適法に強制執行の申立てを行うと、執行裁判所が差押命令を出し、ゴルフ場へ届きます。

そうすると、ゴルフ場は、預託金の払渡しや名義書換等の譲渡を承諾する手続きをすることが禁じられることになります。

差押えがなされた場合、債権者は、債務者が本当に会員権を持っているのかどうかなどを確認することが認められています。これを第三債務者の陳述催告といい、通常、差押命令と一緒に「陳述書」が郵送されてきます。

「陳述書」は、㋐会員資格の有無、㋑入会金、預り金等の払込み完了の有無及びその金額、㋒会員権について、他の債権者からの請求の有無やその内容、㋓会員権について、他の債権者からの差押え等の有無とその内容などを記入するものとなっています。

なお、差押えがなされたという裁判所からの通知が来ただけでは、会則に特に定めのない限り、従来の名義人を会員として取扱わなければなりません。その後の裁判手続により会員権を取得した人に対する名義書換が完了するまでは、従来の名義人のプレーを拒否したりできませんので、ご注意下さい。

 

差押が競合する場合

債権者からの差押えを受けるような場合には、会員の債務弁済の資力が十分でない場合も多く、当該会員が他の債権者からも差押えや仮差押えを受け、差押えが競合するケースも多く見受けられます。

このような場合、ゴルフ場としては、勝手に判断して片方の債権者に対して支払いをすると、二重弁済のリスクを負うことになりますので、注意が必要です。

両方の(仮)差押えの額の合計が債務額を超えるときなどは、必ず供託をしなければなりません。供託は、最寄りの法務局に対してすることになります。

 

譲渡通知が差押に先行している場合

また、差押えを受ける前に会員権を既に譲渡して換価している場合もままあり、譲渡通知と差押命令が競合して到達することも起こり得ます。

この場合、譲渡通知と差押命令のどちらを優先して扱うべきでしょうか。

この点、譲渡通知と差押命令の優先関係は、譲渡通知の到達と差押命令の送達の先後で決定されます。

そのため、差押えより先に譲渡通知がゴルフ場に到達している場合には、会員権の譲受人が差押債権者に優先することになりますので、先程の「陳述書」には、「㋐ない」と記入し、譲受人からの名義書換申請に応じなければなりません。

なお、譲渡通知は通常内容証明郵便で発送されますが、複数の譲渡通知が競合する場合、優先関係は通知がゴルフ場に「到達」した日の先後で決定されます。

この点、内容証明郵便は相手方が通知を「発送」した日を証明するものでしかなく、内容証明郵便に記載された日(発送日)の先後で優先関係を判断するのは間違いです。

そのため、ゴルフ場に通知が到達した日を常日頃から管理して対応する必要がありますので注意が必要です。

 

差押命令後の手続

現在のゴルフ会員権は、預託金額で評価することが妥当でなく、また預託金全額を取り立てることも実際上困難であることから、差押債権者は、原則として、売却命令や譲渡命令により、差し押さえた会員権を換価して債権回収を行うことになります。

 

売却命令と譲渡命令

売却命令とは、執行裁判所が、例えば、動産執行の手続きにより競り売りの方法で売却するなど、その定める方法により差し押さえた会員権の売却を執行官に命ずる命令です。

執行官が売却命令により会員権を売却すると、執行官からゴルフ場へ確定日付のある証書により譲渡通知がなされます。これにより、ゴルフ場は、売却命令により誰が会員権を取得したかを知ることができます。

一方、譲渡命令とは、差し押さえた会員権を執行裁判所が定めた金額で支払に代えて差押債権者に譲渡する命令です。

これらの場合、会員権を取得した者から名義書換を求められた場合には、これに応じなければなりません。もっとも、譲渡命令は確定しなければ効力は生じませんので、ゴルフ場としては、名義書換手続きの際に、裁判所の発行する確定証明書を添付させたほうがよいでしょう。

なお、これらの場合であっても、ゴルフ場の会則に定める入会資格を満たさない場合には、入会を拒否することができます。

また、前記昭和60年8月15日東京高裁決定は、名義書換停止中の会員権であっても譲渡命令を発する妨げとはならないと判断しており、売却命令についても同様に考えることができます。

 

取立権の行使

さらに、差押え債権者は、取立権の行使により、債権回収できるかが問題となります。

取立権の行使とは、預託金の据置期間が満了している場合、債権者がゴルフ場に対し、会員に代わって退会し預託金の返還請求をすることです。

この点については争いがあり、平成10年5月28日東京地裁判決は、会則上、預託金返還請求は退会を前提としておらず、据置期間が経過すれば、会員自身が退会しなくても具体的な金銭債権として預託金返還請求権が発生することを理由に、これを認めています。

しかしながら、預託金制ゴルフ倶楽部の会員権の性質は、優先的施設利用権や預託金返還請求権などが複合したものと考えられますが、預託金返還請求権については、会員が退会しない限り抽象的なものにとどまり、具体的な金銭債権とはならず、会則上も会員自身が退会して初めて預託金返還請求できると規定されていることが一般であるように思われます。

このような理解に立てば、会員が退会する前に具体的な金銭債権として預託金返還請求権が発生するという上記判決の考え方は、やや実態と乖離しているように思われます。

そこで、会員自身が退会すなわち会員契約の解除の意思表示を行うべきで、会員自身の退会なしに、差押債権者の預託金返還請求は認められないものと考える見解も有力ですので、容易に妥協せず、裁判で争うことも考えられてしかるべきでしょう。

 

ゴルフ場が債務者である場合

次に、ゴルフ場が債務者である場合について説明します。

ゴルフ場が会員から預託金返還請求訴訟を提起されて敗訴した場合、裁判所は、会員の申立てに基づいて、会員のゴルフ場に対する請求権を強制的に実現することになります。

この方法にはいくつかありますが、ゴルフ場が債務者の場合に問題となるのは、主に動産執行手続と不動産執行手続です。

動産執行手続とは、債権回収のために、債権者の申立てに基づいて、裁判所の執行官がゴルフ場の現金を差押さえたり、ゴルフ場の家具や商品類、機械などを売却して換価し、その代金を金銭債権の弁済に充てる手続です。

一方、不動産執行手続とは、債権回収のために、債権者の申立てに基づいて、その不動産を裁判所が売却する手続です。

ゴルフ場によっては、所有不動産に抵当権を設定している場合もあります。

この点、一般債権者による差押えと抵当権との優先関係については、差押命令の送達と抵当権設定登記の先後で決まります。

なお、抵当権者が本登記ではなく仮登記したに過ぎない場合でも、仮登記には順位保全効がありますので、後に抵当権者が本登記をした場合には、その本登記は仮登記をした日に遡って本登記をしたのと同じ効力が認められることになります。

 

強制執行妨害罪

ゴルフ場の銀行預金を差し押さえられると困るからといって、支配人個人名義の口座を作ってそこでゴルフ場の売上を管理したり、あるいはゴルフ場のクラブハウスやコースが売却されると困るからといって、関連会社に名義を変更したりすることは許されません。
これらの行為は、「財産を隠匿し、損壊し、若しくは仮装譲渡し、又は仮装の債務を負担」したものとして、強制執行妨害罪(刑法第96条の2)となり、法定刑は2年以下の懲役又は50万円以下の罰金とされています。
さらに、強制執行を免れるために不動産の名義を変更しても、このような行為は民事上も無効であり、仮装名義人に対して強制執行していくことになります。

「ゴルフ場セミナー」2012年4月号掲載
熊谷綜合法律事務所 弁護士 熊谷 信太郎

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