熊谷信太郎の「ゴルフ場利用税」

日本のゴルフ場では、利用代金にゴルフ場利用税が加算されます。標準税率は800円ですが、都道府県の条例によって、最高1200円まで課税されます。この税金に対して、以前からゴルフ関係者から廃止を求める声があるのは周知のとおりですが、ここ数年、特にその動きが活発になっています。

この税の前身は、昭和15年に国税として導入された入場税です。映画館、劇場、遊園地などとともに、ゴルフ場でプレーする人は担税力があると考えられたわけです。その後、昭和29年にパチンコ店やマージャン店などとともに「娯楽施設利用税」という地方税となり、さらに平成元年の消費税導入に際して、国税の入場税は廃止され、娯楽施設利用税もゴルフ場の利用に限定され、名称もゴルフ場利用税と変更されました。

そのため、現在では特別な税金が課されている唯一の施設ということになります。しかも、ゴルフが次期オリンピックから競技種目に正式に決まったため、スポーツに対する不当な課税という批判が強まっているのです。

そこで今回は、改めてゴルフ場利用税について整理・検討したいと思います。

 

ゴルフ場利用税

ゴルフ場利用税とは、日本の地方税法に基づき、ゴルフ場の利用について、1日当たりの定額で、ゴルフ場の所在する都道府県が課する税金です(地方税法4条2項6号、75条以下、1条2項)。この税は、都道府県税ですが、税収の7割はゴルフ場が所在する市町村(特別区を含む)に交付することとされています(地方税法103条)。ちなみに、ゴルフ練習場の利用は課税対象とはなりません。

税率の基準は各都道府県により異なり、利用料金、ゴルフ場の規模などの等級に応じて課税を行っています。標準税率は1日当たり800円で、1200円が上限とされています(地方税法76条)。

 

非課税措置と軽減措置

ゴルフ場利用税は、ゴルフ場を利用した人からゴルフ場の経営者(特別徴収義務者)が都道府県に代わって徴収し、当該都道府県に納入するものです。

但し、以下の場合には、ゴルフ場利用税は課税されません。

①年齢18歳未満又は70歳以上のゴルフ場の利用

②身体障害者等のゴルフ場の利用

③国民体育大会のゴルフ競技に参加する選手が、国民体育大会のゴルフ競技として行うゴルフ場の利用

④学校教育法第1条に規定する学校の学生、生徒等又はこれらの者を引率する教員がその学校の教育活動として行うゴルフ場の利用

非課税の適用を受けるためには、①運転免許証・身分証明書等年齢が証明できるもの②障害者手帳等③都知事が発行する証明書④学長又は校長の発行する証明書を利用の際に提出・提示して貰う必要があります。

また、以下の場合には、ゴルフ場利用税の税率が2分の1に軽減されます。但し、ゴルフ場の利用料金が通常の2割(②の場合は5割)以上軽減されている場合に限ります。

①年齢65歳以上70歳未満のゴルフ場の利用

②①に掲げる以外の利用で利用時間について特に制限があるもの(早朝利用、薄暮利用、夜間利用等)

①の場合、運転免許証・身分証明書等年齢が証明できるものを利用の際に提示して貰う必要があります。

 

最高裁判決

ゴルフ場利用税に関しては、最高裁昭和50年2月6日判決があり、概ね以下のとおり判断し、この税の合憲性や合理性を肯定しています。

①憲法13条違反の点について(スポーツをする自由の制限)
ゴルフは娯楽としての一面をも有し、ゴルフ場の利用が相当高額な消費行為であることは否定し難い。ゴルフ場の利用に対し娯楽施設利用税を課する趣旨も、娯楽性の面も有する高額な消費行為に担税力を認めたからである。地方税法は、ゴルフ自体を直接禁止制限するものではく、高額な支出をなしうる者に対し、1日500円程度の税金を課したからといって、ゴルフをすることが困難になるとは考えられず、スポーツをする自由を制限するものであるということはできない。

②憲法14条違反の点について(法の下の平等に反する)

立法上ある施設の利用を娯楽施設利用税の課税対象とするか否かは、社会通念等を基礎として、施設の利用の普及度、利用料金に表される担税力の有無等を総合的に判断した上で決定されるべき問題である。

ゴルフは野球等と同じく健全なスポーツとしての一面を有するが、野球場等の利用は普遍的、大衆的であり、利用料金も担税力を顕著に表すものとはいえないのに対し、ゴルフ場の利用は高額な消費行為であることは否定し難い。このような顕著な差異を無視して租税負担の公平を欠き平等原則に違反するとする違憲の主張は、その前提を欠く。

③憲法21条違反の点について(結社の自由の侵害)

娯楽施設利用税は社団の結成、運営それ自体に課せられるものではなく、1日500円程度の娯楽施設利用税を課したからといって直ちに社団の結成、運営を妨げるものとは考えられないし、また、同好者による競技会の開催を困難にするものとも考えられない。

④二重課税となるかどうか

固定資産税は、土地、家屋等の資産価値に着目して課税される一種の財産税であり、土地、家屋及び償却資産の所有に対し課されるものである。一方、娯楽施設利用税は、法定の施設の利用行為に伴う消費支出行為に担税力を認めて課税される一種の消費税であり、特定の施設の利用行為に対し課されるものである。

両者はその性格、課税の対象を異にするだけでなく、納税義務者も異なるから、ゴルフ場の土地、建物に固定資産税を賦課した上、ゴルフ場を利用する会員に対し娯楽施設利用税を賦課しても、二重課税の問題を生じない。

 

課税の理由

平成元年の消費税導入時に、娯楽施設利用税が廃止されたにもかかわらず、ゴルフ場の利用についてのみゴルフ場利用税を設け、現在も存在している理由は、一般に次のように説明されています。

㋐贅沢税-ゴルフ場の利用は、日本においては、他のレジャーに比べて費用が高いことから、利用者にはより高い担税力があるとする考え方

前記最高裁判決もこの点に言及していますが、ある団体がゴルファーを対象に行ったアンケートでは、「平均年収700万円未満」との回答が過半数を占め、「格安になっているゴルフ場利用料金に比べ、この税金は負担である」「ゴルフ場利用税が撤廃されれば、ゴルファーの底辺拡大、ゴルフの普及につながる」との声も多くあります。現在、ゴルフは国民体育大会(国体)の正式種目であり、次期オリンピックの正式種目にも加えられています。このようにゴルフが国民スポーツとして一般に受け入れられている現在にもこの考え方が妥当するかどうか疑問のあるところです。

㋑応益税-ゴルフ場に係る開発許可、道路整備などの行政サービスは専らゴルフ場の利用者に帰属することから、利用者にこれらの費用を負担させようとする考え方

確かにゴルフ場を開設する時の開発許可(都道府県知事の許認可権)等行政サービスを受けていますが、一方で、ゴルフ場は新たな雇用の創出や諸物品販売等、事業が発生して地元経済の活性化に貢献しています。そもそもゴルフ場だけを対象にした行政サービスは見当たらないと思われ、この考え方の妥当性には疑問が残ります。

㋒本税収の内、3割が都道府県の収入となり残り7割は当該ゴルフ場が存在する市町村に交付されており、市町村にとっては貴重な財源となっているとする考え方(平成24年度は507億円の税収があり、うち7割の354億円が市町村に交付)

この考え方については、平成26年11月、参院予算委員会の審議で、麻生太郎財務相が「オリンピックの種目に税金がかかるのはいかがか。仮に消費税が来年10月から上がるのであれば、地方税も収入が増えるから、いいタイミングかなという感じはする」と答弁し、安倍晋三首相も「(プレー料金の)全国平均は食事が付いて8000円位で、ゴルフ場利用税の比率が高くなっているのは事実。総務大臣とも相談しながら検討したい」とし、ゴルフ場利用税廃止に一定の理解を示しました。遠藤利明五輪相も、ゴルフ場利用税の是非について、「一般国民が普通にやるスポーツから税を取るのは、本来のスポーツの趣旨から違うのではないか。五輪種目であることも踏まえて対応すべきだ」と指摘しています。

しかしながら、消費税率10%への引き上げが平成29年4月に延期されるに伴い、廃止は見送られてしまいました。

 

ゴルフ場利用税廃止へ向けて

以上のとおり、贅沢税や応益税といった課税理由が現在も妥当性するかどうかについては疑問が残るところであり、市町村の重要な財源だからという理由だけでゴルフ場利用者に対してのみ税負担を貸すことは、税の公平性の観点からも問題があろうと思われます。

平成23年に制定されたスポーツ基本法では、スポーツを通じて幸福で豊かな生活を営むことは、全ての人々の権利であり、全ての国民が日常的にスポーツに親しみ、スポーツを支える活動に参画することのできる機会が確保されなければならないと規定されています。ゴルフは子供から高齢者、障害者まで広く親しまれている国民スポーツです。ゴルフ場の利用料金の低額化も進む中、ゴルフ場利用者にとって、ゴルフ場利用税の負担は決して小さいものではなく、ゴルフ場利用税の存続はスポーツ基本法の理念にも悖るものとも言えます。

なお、国家公務員倫理規程が利害関係者との禁止行為にスポーツでゴルフだけを特記している点も、不当な制限と言わざるを得ません。前述の遠藤五輪相も、「もともとはぜいたくな遊びとの感覚だったのだろうが、今では大衆スポーツとなっている。ゴルフを特別と見るのはふさわしくない」とし、利用税と同じく、ゴルフを特別扱いにして不当な扱いをする同規定の削除について理解を示しています。

ゴルフが次期オリンピックの正式種目に加えられ、国際的にも生涯スポーツとして認知されている現在、世界的に例がないゴルフ場利用税を存続させることが妥当かどうか、平成32年東京オリンピック・パラリンピック開催国として、改めて議論すべき問題であろうと思われます。

「ゴルフ場セミナー」2016年4月号掲載
熊谷綜合法律事務所 弁護士 熊谷 信太郎