社団法人制ゴルフ倶楽部といえば、いわゆる関東七倶楽部など、名門ゴルフ倶楽部を思い浮かべる方も多いと思います。
これらの社団法人制ゴルフ倶楽部は、日本における正統的なゴルフプレーやマナー、倶楽部ライフの普及・向上に貢献してきたわけですが、平成20年12月1日の新たな公益法人制度の施行により、公益法人としての存続が難しくなりました。
これらの社団法人は、一般社団法人への移行を迫られており、その場合には、「公益目的支出計画」を定め、現在有している純資産をすべて支出しなければならないなど、大きな影響を受けています。
中間法人制ゴルフ倶楽部
一方、預託金制ゴルフ倶楽部の中には、中間法人となって預託金償還問題を解決しようとしたゴルフ倶楽部もありました。
中間法人とは、公益法人と営利法人の中間的な存在であり、中間法人制度は、そのような存在に対しても法人格を与えるための制度です。
従来は、同窓会やサークルなどの中間的な団体に法人格を認める法律がなく、団体自らが権利を有し義務を負うことができなかったため、さまざまな問題がありました。
そこで、平成14年4月、中間法人法に基づく中間法人制度がスタートし、ゴルフ場事業者の間においても、いわゆる預託金償還問題への対処方法として、中間法人スキームが脚光を浴びたのです。
中間法人スキームの典型的な例は、①従来の会員は、預託金債権等を基金として拠出し、中間法人の社員となる、②中間法人はゴルフ場事業会社の株式の一部を保有する、③会員は、中間法人を通して間接的に事業会社をコントロールする、というものでした。
ゴルフ場事業者にとって、この中間法人スキームを導入する最大のメリットは、中間法人の社員となった会員から個別の預託金返還請求をされないということでした。
しかしながら、このやり方には、中間法人制への移行に同意しない会員からの預託金返還請求を拒むことができないという問題があり、倶楽部は中間法人制に移行したものの、事業会社の経営を維持することができず、民事再生手続きなどの法的整理を余儀なくされた例もありました。
逆に、事業会社の民事再生手続きを行い、預託金返還請求権の大部分をカットした上で、ゴルフ倶楽部が新たに中間法人になるという例もありました。
ところが、平成20年12月1日のいわゆる一般法人法施行に伴い、中間法人制度は廃止され、中間法人は一般社団法人に衣替えすることになりました。
一般社団法人制ゴルフ倶楽部
上記のとおり、中間法人制ゴルフ倶楽部が生まれる契機となったのも、いわゆる預託金償還問題でしたが、中間法人制ゴルフ倶楽部に代わる預託金償還問題対策として、一般社団法人制ゴルフ倶楽部へ移行することが議論されています。
一般社団法人とは、いわゆる一般社団・財団法人法に基づいて一定の要件を満たしていれば設立できる法人で、事業目的に公益性がなくてもかまいません。
原則として、株式会社等と同様に、全ての事業が課税対象となりますが、設立許可を必要とした従来の社団法人とは違い、一定の手続き及び登記さえ経れば、主務官庁の許可を得るのではなく準則主義によって誰でも設立することができます。
ところで、法人格がないと、代表者個人の名義で登記、銀行口座の開設をするため、団体と個人の資産の区分が困難になり、代表者が代わると団体の運営、存続に支障をきたすこともあります。また、団体名(任意団体)では契約を締結できないこともあります。そのため契約締結を個人名ですると当該個人が責任を負う恐れもあります。
一般社団法人として法人格を取得することにより、こういった懸念を払拭することができることになります。
また、団体法的解決を図ることが可能となり、的確な整理、処理に繋がり、ゴルフ場と会員の権益を守ることができるというメリットもあります。
さらに、中間法人スキームに代わる預託金償還問題対策として、以下のような一般社団法人スキームの採用が考えられます。
(1)一般社団法人制ゴルフ倶楽部を設立する。
一般社団法人制ゴルフ倶楽部設立の具体的な手続きの流れは以下のとおりです。
①定款を作成し、公証人の認証を受ける。
②設立者が財産(価額300万円以上)の拠出を行う。
③定款の定めに従い、設立時評議員、設立時理事、設立時監事等の選任を行う。
④設立時理事及び設立時監事が、設立手続の調査を行う。
⑤法人を代表すべき者(設立時代表理事)が、法定の期限内に、主たる事務所の所在地を管轄する法務局又は地方法務局に設立の登記の申請を行う。
(2)従来のゴルフ倶楽部(任意団体)の会員は一般社団法人の社員となる。
その際、預託金対策という意味では、会員から、預託金債権等を基金(一般社団法人に拠出された金銭その他の財産)として拠出(債権譲渡等)することについての同意を取り付けることが重要です。
但し、基金の拠出者の地位は、一般社団法人の社員たる地位とは結び付いていないので、基金の拠出をしない会員も、一般社団法人の社員となることはできます。
(3)一般社団法人は、ゴルフ場事業会社の株式の一部を保有する。
この場合、会員は、一般社団法人を通して間接的に事業会社をコントロールすることが可能となります。
あるいは、議決権を与えずに、経済的利益を与える優先株式(利益もしくは利息の配当または残余財産の分配およびそれらの両方を、他の種類の株式よりも優先的に受け取ることができる地位が与えられた株式)とすることも考えられるでしょう。
一般社団法人制のゴルフ倶楽部としては、平成21年1月、田辺カントリー倶楽部を運営する任意団体の田辺カントリー倶楽部が、一般社団法人田辺カントリー倶楽部を設立したのが最初です。
田辺カントリー倶楽部は、資産保有会社である山城土地開発株式会社から資産を借りてゴルフ場を運営していましたが、任意団体では、不動産の取得などにおいて不都合があったため、ゴルフ場用地を除くクラブハウスなどの不動産を山城土地開発株式会社から買い上げて、一般社団法人になりました。
一般社団法人制ゴルフ倶楽部の具体例
平成21年2月には、長崎国際ゴルフ倶楽部が、2年後に預託金(500万円)の返還期限が到来することや、現在の経営会社である長崎国際ゴルフ倶楽部は法人格のない任意団体で金融機関から借入ができないことなどから、一般社団法人の設立を決めました。
計画内容は、概ね以下のとおりです。
①会員は一般社団法人の社員となり、従業員も一般社団法人へ移行し、任意団体の長崎国際ゴルフ倶楽部は一般社団法人設立後に解散する。
②施設保有会社である長崎土地開発株式会社が負担する預託金については、負担軽減のため、全部または一部の60万円を基金(返還不要)に拠出し、残りは預託金として倶楽部退会時に返還する。
③長崎土地開発株式会社の株主会員は、株式を一般社団法人に売却して60万円(1株10万円で6株)を基金(返還不要)に拠出する。
④一般社団法人が経営を一体化するため、長崎土地開発株式会社は解散する。
また、函南ゴルフ倶楽部(静岡県)も、平成22年10月19日に、会員で組織した任意団体の函南ゴルフ倶楽部を一般社団法人化して、一般社団法人函南ゴルフ倶楽部を設立し、経営や運営面の強化に取り組んでいます。
函南ゴルフ倶楽部は、株主会員制のゴルフ倶楽部ですが、株主会員になるに当たって株式代金の他に預託金(再建拠出金として60~120万円)を徴収しており、将来的に起こりうる預託金返還問題を考慮して、一般社団法人に移行しています。
一般社団法人移行の際の注意点
預託金対策として一般社団法人制ゴルフ倶楽部にする場合の最大の問題点は、中間法人制ゴルフ倶楽部の場合と同様、一般社団法人への移行に同意しない会員からの預託金返還請求まで止められるものではないという点です。
そこで、会員からの同意を丁寧に取り付け、一般社団法人への誘導を上手に進めることが重要でしょう。
なお、中間法人制ゴルフ倶楽部が一般社団法人に移行する場合には、権利義務関係はそのまま一般社団法人に引き継がれ、ほとんど影響を受けませんが、以下の2点については注意が必要です。
①名称の変更
平成20年12月1日が属する事業年度終了後最初の定時社員総会終結時までに、従来の中間法人は、「一般社団法人」という文字を使用した名称に変更しなければならず(違反に対しては「20万円以下の過料」の制裁が定められています)、それにあわせて定款を変更しなければなりません。
定款の変更は、社員総会の特別決議によって行う必要があります。
特別決議を行うためには、①賛成した人数が、全ての社員の人数の半数以上であり、②かつ、賛成した議決権の数が、全ての社員の議決権の数の3分の2以上であることが必要です。
これらの賛成票を得られないと、名称変更できないことになります。
そこで、定款変更への同意を取り付けておくなどの段取りが必要となる点にも意が必要です。
なお、社団法人の場合、あらかじめ、書面又は電磁的方法(電子メール等)による承諾を得れば、電子メールによって社員総会を招集、開催し、社員に電子メールで議決権行使をしてもらうことで承認決議を経ることも法律上可能であり、社員総会を開催する煩雑さを軽減することができます。
②登記
既存の中間法人の登記は、特段の登記申請を要せず、当然に、一般社団法人としての登記になりますが、①の名称の変更を行った後2週間以内に、改めて名称変更の登記をしなければなりません。
また、その時に、役員変更の有無にかかわらず、役員の登記事項を改める必要があります。
「ゴルフ場セミナー」2013年1月号掲載
熊谷綜合法律事務所 弁護士 熊谷 信太郎