熊谷信太郎の「労働者派遣」

キャディさんやコース管理に派遣会社から労働者の派遣を受けているゴルフ場も多いと思います。派遣社員やパート、アルバイト等の非正規雇用者は平成26年平均で1962万人、役員を除く雇用者全体の37.4%を占めており、このうち派遣社員は292万人、非正規雇用者の14.9%を占めており、無視できない存在となっています。

平成27年9月、改正労働者派遣法が成立・施行され、新しい法律の下での運用が開始しています。

そこで今回は、労働者派遣について検討します。

派遣法の歴史

派遣労働とは、労働者と雇用契約を結んだ会社(派遣元)が、労働者派遣契約を結んでいる依頼主(派遣先)へ労働者を派遣し、労働者は派遣先の指揮命令に従って働くという働き方です。

なお、派遣とよく似た就業形態に出向(在籍出向)があります。どちらも出向先や派遣先の会社の指揮命令に従って就業しますが、両社の違いは、派遣先(出向先)に労働契約と指揮命令関係があるかどうかです。 出向の場合には、労働契約及び指揮命令関係の双方が出向先にあるのに対し、派遣の場合には、労働契約は派遣元にのみあり、指揮命令関係は派遣先にあります。つまり、出向の場合、出向元と出向先の両方で二重の労働契約関係が成立し、出向先では自社の従業員と同様に扱えるのに対して、派遣の場合には労働契約関係と使用関係が分離することになります。派遣社員に派遣先のゴルフ場の就業規則は適用されず、仮に派遣社員がゴルフ場でトラブルを起こしたとしてもゴルフ場側では懲戒処分をすることができず派遣元に懲戒処分を申し入れるのが関の山ということになります。

我が国の人材派遣は、昭和61年にいわゆる労働者派遣法が施行され、一部の特筆すべき技能を有する13業務(同年16業務に変更)について、一時的に外部から労働者の提供を受ける手段として始まりました。

平成8年には、専門性の高い業務を中心に、対象業務を26業務に拡大しました。平成11年には、派遣業種を原則自由化し、一部禁止するものを指定する方式に変更し、26業種は3年、新しく追加されたものは最長1年間の派遣期間制限が設けられました。平成12年には、派遣先企業に直接雇用されることを前提に一定期間派遣として就業し、期間終了後に企業と本人が合意した場合、直接雇用として採用されるシステム(紹介予定派遣)が解禁されました。

平成16年改正

平成16年改正で派遣先企業にとって重要なのは以下の2点です。平成27年の改正後も、施行日(平成27年9月30日)前に契約している派遣契約については、これらの規定が適用されるので依然として注意が必要です(後述)。

①派遣受入期間の延長

26業務については制限が撤廃され、派遣期間がこれまで1年間と制限されてきた業務については、最長で3年間と改正されました。

②直接雇用の申込み義務

派遣期間後(最長で3年)も同じ派遣労働者を使用しようとする派遣先の事業主は、期間前日までに派遣労働者に対して雇用契約の申込みをしなければいけません。つまり、一つの会社で3年を超えて派遣されることはなく、4年目以降も同じように働いて貰うには、派遣社員ではなく直接雇用されることになります。

また最長3年という派遣期間の制限がない業種でも、3年以上派遣されている労働者がいるのにさらに別の新たな労働者を雇入れようとする場合、現在、派遣されている労働者に対して直接雇用を申し込まなければなりません。

これら「直接雇用の申込み義務」に違反した事業主に対しては国が指導し、勧告・企業名公表される場合もありますので注意が必要です。

平成24年改正

平成24年には、法律名称が「労働者派遣事業の適正な運営の確保及び派遣労働者の保護等に関する法律」(以下「派遣法」)に改正され、26業務が28業務に整頓されました。派遣先企業にとって重要な改正は以下点です。

  • 労働契約申込みみなし制度

この制度は、派遣先が違法派遣と知りながら派遣労働者を受け入れている場合、違法状態が発生した時点において派遣先が派遣労働者に対して労働契約の申込み(直接雇用の申込み)をしたとみなすもので、平成27年10月1日に施行されました。

違法派遣とは、㋐派遣労働者を禁止業務に従事させること、㋑無許可又は無届出の派遣会社から派遣を受け入れること、㋒派遣期間制限に違反して派遣を受け入れること、㋓いわゆる偽装請負等の場合です。

平成27年改正

平成27年改正法には、「派遣労働者のより一層の雇用の安定、キャリアアップを図る」との目的が掲げられました。この目的を実現するため種々の改正が行われましたが、派遣先企業にとって重要なのは、派遣期間制限が見直された点です。期間制限に関する28業務とその他の業務の区別を廃止し、以下の制度が設けられました。

  • 事業所単位の期間制限

派遣先の同一の事業所における派遣労働者の受入れは3年を上限とする。それを超えて受け入れるためには過半数労働組合等からの意見聴取が必要。意見があった場合には対応方針等の説明義務を課す。

つまり、ゴルフ場で派遣社員を受け入れる場合、意見聴取が行われないと3年を超えて派遣を受け入れることはできません。意見聴取がとても重要になります。

  • 個人単位の期間制限

派遣先の同一の組織単位(課)における同一の派遣労働者の受入れは3年を上限とする。

つまり、ゴルフ場事業会社が意見聴取により長期的に派遣利用を行う場合であっても、属人的に考えると、3年毎に仕事内容(課)を変えなくてはなりません。派遣社員をレストランスタッフとして採用した場合、3年経過後は経理課等仕事内容を変える必要があるわけです。

なお、平成27年改正法施行日前までに契約している派遣契約は、改正前の規定が適用され、施行日以降に締結した派遣契約から新制度が適用されます。

つまり、施行日(平成27年9月30日)前までに締結された派遣契約で、施行日以降に自由化業務の派遣制限期間(3年間)の抵触日を超えて派遣労働者を受け入れていた場合や、28業務で3年以上受け入れている派遣労働者がいる場合で、同じ業務に新たに労働者を雇い入れする場合には、改正後の「労働契約申込みみなし制度」ではなく、改正前の「直接雇用の申込み義務」が適用されることになります。

 派遣契約のトラブル事例

ゴルフ場においてもキャディやレストランスタッフを派遣社員として受け入れている場合も多いと思われます。以下に実務上の注意点を取り上げます。

  • 事前打ち合わせ後の不採用

派遣法は、派遣先が派遣受入れにあたり、派遣労働者を選考し、特定する行為を、紹介予定派遣を受入れる場合を除き禁止しており(派遣法26条6項)、派遣社員の受け入れに当たっての事前面接も禁止されます。そのため、「打ち合わせ」の名目で、派遣スタッフと接触を試みた場合、個々のケースによって程度の差はありますが、「打ち合わせの時点ですでに雇用関係が成立しているとみなされる可能性がある」という厚生労働省の見解が出ていますので注意する必要があります。また今後は「労働契約申込みみなし制度」の適用も考えられます。労働契約が成立したとされる場合、面接に要した日当と交通費の請求もされますし、場合によっては解雇とみなされ不採用に対する損害賠償の可能性も生じてきます。

  • トライアルターム

派遣先で行われるトライアルターム(試用期間)も、派遣先が派遣スタッフを特定するためのものであれば、派遣法違反となります(派遣法26条6項)。

例えば、複数の派遣会社から3人派遣させて、1週間働かせて採用したのは1人のみというケースでは、派遣先がスタッフの働きぶりをみて採用を決めていると見なされる危険があります。今後このようなケースでは派遣先と派遣労働者との間に、当初から雇用関係が生じていたと判断される可能性が生じます(労働契約申込みみなし制度)。

  • 偽装請負

形式上、請負人(受託業者)が注文主との間で請負契約を締結しているものの、請負人が従業員を注文主の事業場等において作業させる際に注文主の指揮命令を受けて労務を提供させることを偽装請負と呼んでいます。

偽装請負と評価される場合、請負事業者は派遣法違反となり罰則の対象となります(1年以下の懲役又は100万円以下の罰金等) 。派遣先は派遣法による罰則の対象となっていませんが、労働者供給を行っていると判断される場合には職業安定法44条違反として罰則の対象となるので注意が必要です(1年以下の懲役又は100万円以下の罰金 ) 。

偽装請負とされないための基準としては厚労省告示 37 号が挙げる基準が参考になります。以下の要件を満たせば適法な請負となりますが、満たさない場合には請負事業者は労働者派遣事業の許可を取得しなければなりません。

①請負事業主が、請負業務に従事する労働者に対して、直接業務指示をし、その労務管理の全てを行なっていること。②請負契約により請け負った業務を自己の業務として当該契約の相手方から独立して処理すること。

このうち実務的に主として問題となるのは①の指揮命令の要件です。ゴルフ場が請負業者から労働者を受け入れる場合も、当該労働者の中で業務指示を担当する者を決め、ゴルフ場の要望はその担当者を通じて社外労働者に伝えるようにする必要があります。仮に当該労働者が1名しかいないような場合には、ゴルフ場と請負業者との間で事前にマニュアルを定め、当該労働者にはそのマニュアルに従って作業させ等、注文主が直接指揮命令したことにならないような工夫が必要です。

これまで、偽装請負であると判断された場合、注文主と請負人が雇用する労働者との間に黙示の労働契約関係の成立の余地を認める裁判例もありました(マイスタッフ(一橋出版)事件・東京地平17・7・25判決、伊予銀行・いよぎんスタッフサービス事件・松山地平15・5・22判決等)。

もっとも、今後は「労働契約申込みみなし制度」の適用要件に当てはまり、かつ派遣労働者から承諾の意思表示がなされた場合には、明示の労働契約が成立したことになります。

「ゴルフ場セミナー」2016年2月号掲載
熊谷綜合法律事務所 弁護士 熊谷 信太郎