本年6月、ポテトチップス約1000袋(約30万円相当)を雑木林や畑に捨てたとして兵庫県の会社員が廃棄物処理法違反(不法投棄)の容疑で逮捕されて話題となりました。袋には人気声優のライブチケットの応募券が印刷されており、応募券欲しさに食べるつもりなく大量購入したようです。
ゴルフ場の例でも、日本女子オープンを開催した新潟県のゴルフ倶楽部が、平成20年3月にゴルフ場所有のコース隣接地内の穴に紙くずやタイヤ等のごみ約1・25トンを埋めたとして廃棄物処理法違反で逮捕され、翌年9月、ゴルフ場を経営する会社と不法投棄に関わった建設会社及びその関係者に対して有罪判決(ゴルフ場経営会社には罰金300万円、元支配人には懲役1年6月、執行猶予3年、罰金50万円)が下されたことは記憶に新しいと思います。
また、平成17年には北海道のゴルフ場で敷地内に農薬の空き容器などを捨てていたことが判明し、廃棄物処理法違反でゴルフ場経営会社に罰金120万円、元総支配人に懲役1年、執行猶予3年等の判決が下されています。
ゴルフ場の運営に伴って、伐木・抜根、刈った芝生、枯葉、レストランの生ゴミ等様々な廃棄物が生じると思います。これらの廃棄物を、ゴルフ場の用地内で焼却したり埋め立てたりしてよいのでしょうか。
今回は廃棄物の適切な処理と産廃物等の不適切な処理に伴う土壌汚染について検討します。
廃棄物とは
廃棄物とは、いわゆる「ごみ」だけでなく、自分で利用したり他人に有償で売却できないために不要となった固形状又は液状のもの全てを言います。
廃棄物は「一般廃棄物」と「産業廃棄物」に分類されます。一般廃棄物はさらに家庭から排出される家庭廃棄物と会社等が事業活動に伴って排出する事業系一般廃棄物に大別されます。
産業廃棄物は不燃ごみ、事業系一般廃棄物は可燃ごみをイメージして貰えばよいと思います。
詳しくは後述しますが、産業廃棄物は産業廃棄物処理業者が産業廃棄物処理施設に運んで処理し、残渣は産業廃棄物最終処分場で処理されます。事業系一般廃棄物は一般廃棄物処理業者又は排出業者が市区町村のごみ処理施設に運んで処理し、焼却灰は各市区町村の廃棄物広域処分場で処理されます。
産業廃棄物の処理
「産業廃棄物」とは、事業活動で発生するビニール類・ペットボトル等のプラスチック製品や缶・アルミホイル等の金属くず等で法律で定めるものです。使用済みのプラスチック製のボールペンや空缶も、事業活動で発生した物である限り産業廃棄物になります。
産業廃棄物の処理については、「事業者は、その事業活動に伴って生じた廃棄物を自らの責任で適正に処理する」という基本原則があります(廃棄物の処理及び清掃に関する法律11条。以下「廃棄物処理法」)。
とは言え、事業者自ら法律に定める処理基準に従って「保管、収集運搬、処分」することは場所や人手の関係から通常困難です。
そこで、法律で決められた委託基準に従って、都道府県等の許可を受けた産業廃棄物処理業者と処理委託契約書を事前に締結し、産業廃棄物管理票(マニフェスト)を準備する等、適正な方法で処理する必要があります。
一般廃棄物の処理
「一般廃棄物」とは、産業廃棄物以外の廃棄物全てを指し、主に家庭から出てきた「ごみ」やオフィスから出る紙くず等です。例えば古くなったゴルフ場のパンフレットやレストランの生ゴミは一般廃棄物です。伐木・伐根、芝生、枯葉等もゴルフ場の場合には一般廃棄物になります。
会社等が事業活動に伴って排出する事業系一般廃棄物は家庭廃棄物と異なり市区町村では収集しません。自ら各市区町村のごみ処理施設に持ち込むか、市区町村から許可を受けた一般廃棄物処理業者等に収集運搬を委託して処理して貰います(具体的な方法は廃棄物が発生した区域を管轄している各市区町村により異なるため、各市区町村の清掃担当部署のホームページや電話等で確認して下さい)。
従来、ゴルフ場から出た刈った芝草や枯葉等を燃やしたり土中に埋めたりしたことがあったかもしれませんが、これらは一般廃棄物にあたるので、今の法律上は適法な処理設備を用いずに燃やしたり埋め立てたりすることは、生活環境保全の観点から、たとえ自社所有地内であっても違法となるので注意が必要です。
これに対し、芝草や枯葉、枯枝を堆肥化・チップ化して再利用する場合には廃棄物(=不要になった物)には該当せず、廃棄物処理法違反にはならないと考えられます。このような再利用は焼却ごみの削減、資源の有効活用の観点からも望ましいことだと思われます。
ちなみに事業者ではない一般家庭でも、適法な焼却設備を用いずに野外で廃棄物を燃やすことは原則として禁止されます(廃棄物処理法16条の2)。煙や悪臭等が近所迷惑となり、火災の原因、ダイオキシン類や有害物質の発生原因となる可能性があるからです。庭先での小規模な落ち葉たき程度であれば、周辺環境に影響のない範囲で例外的に許されますが(廃棄物処理法16条の2第3号、政令14条)、生活環境上支障を与え、苦情等のある場合は、改善命令や各種行政指導の対象となりますので充分注意が必要です。
このような廃棄物の不法焼却や不法投棄をすると5年以下の懲役かつ/又は1000万円以下の罰金という重い刑罰が科されます。法人の代表者や従業員等が不法投棄等をした場合、行為をした者はもちろん、法人にも3億円以下の罰金が科されます。未遂であっても同様です。
放射能汚染物質の場合
平成23年3月の原子力発電所事故により放出された放射性物質で汚染された廃棄物の処理については、基本的に国や地方公共団体、東京電力等の役割になります。
福島県内の汚染廃棄物対策地域内にある廃棄物及び事故由来放射性物質の放射能濃度が8,000 ベクレル/kgを超えた廃棄物(特定廃棄物)の処理は国が行います。
特定廃棄物以外の廃棄物については廃棄物処理法の規定が適用されますが、東日本の一定のエリア(青森、秋田を除く東北4県、関東1都6県、新潟県)の特定の施設(水道施設や廃棄物処理施設等)の廃棄物等で、放射能濃度が8,000 ベクレル/kg以下の廃棄物は、「特定一般廃棄物・特定産業廃棄物」とされ、通常よりも厳しい基準で処理されます。
このように廃棄物処理施設等で放射能濃度により適切な処理を施す枠組みとなっており、ゴルフ場等の一般事業者に廃棄物の汚染状態の調査・報告の義務までは課せられていません。
もっとも、自治体の担当者によると、自主的に放射線量を測定する等して芝草や枯葉等の廃棄物が放射能に汚染されたことが判明した場合には、廃棄物を処理業者や処理施設に引き渡す際にその点を申告して貰いたいということです。
農薬による土壌汚染
廃棄物の不適切な処理は土壌汚染にもつながります。
さらにゴルフ場においては、芝生や木など多くの植物に対してさまざまな農薬が使用されています。不適切な農薬を過剰に使用すれば、大気や土壌、地下水が汚染されてしまい、プレイヤー、従業員、周辺住民に対して深刻な影響を及ぼします。そこで、ゴルフ場の運営にあたっては農薬の適切な使用が求められます。
特に平成の初めのバブル時代は、ゴルフ場が多く造成され、農薬問題にも関心が集まっていました。
平成2年5月には、当時の環境庁が「ゴルフ場で使用される農薬による水質汚濁の防止に係る暫定指導指針について」という水質保全局長通達を出し、「人の健康の保護に関する視点を考慮」して、ゴルフ場からの排出水中の農薬濃度の上限(指針値)を定めました。その後、対象農薬と数値の改定が必要に応じて行われ、日本ゴルフ場経営者協会(NGK)のホームページでも告知がなされています。
また、ゴルフ場において農薬を使用しようとする者は、毎年度、使用しようとする最初の日までに、農薬使用計画書を農林水産大臣に提出すべきこととされています(「農薬を使用する者が遵守すべき基準を定める省令」(平成15年農林水産省・環境省令第5号)。
このような取組みの成果もあり、平成25年10月の環境省発表によれば、平成24年度に全国555か所のゴルフ場で環境省の指針に基づく水質調査を行ったところ、指針値を超過する検体は一つもありませんでした。
土壌汚染対策法
土壌汚染対策法は、主として、すでに使用が廃止された工場敷地等を調査し、汚染があった場合には土地所有者や汚染者に除去させるという法律です。
しかし、現に使用されているゴルフ場用地であっても、有害物質による汚染で人の健康に係る被害が生ずるおそれがある場合には、汚染調査の対象となります。調査の結果、汚染の程度が一定の基準を超えていることが判明すると、都道府県知事によって汚染区域として指定されます。
都道府県知事は、汚染された土地の所有者や管理者、汚染者等に汚染の除去を命じることになりますが、汚染除去の措置命令に違反すると1年以下の懲役または100万円以下の罰金が科されます。
そして、指定された土地の汚染が除去されて区域指定が解除されるまで、指定区域台帳に記載されます。指定区域台帳は一般に公開されますので、ゴルフ場用地が汚染区域として指定されるようなことがあると、風評被害で来場者が激減し、ゴルフ場の運営上極めて深刻な悪影響が生じるでしょう。
ゴルフ場における土壌汚染は、上記のような廃棄物の不適切な処理や農薬の使用によって生じる可能性があります。土壌汚染に対する認識不足から重大な問題を生じさせないよう、ゴルフ場においては、従業員の一人一人が廃棄物の問題や農薬の問題など、環境法令の基本部分について理解しておくことが大切です。
不法投棄をされたら
ゴルフ場は広大な敷地を有しています。特に山間部のゴルフ場は、夜間や早朝であれば不法投棄をしても人目に付きにくいため、不法投棄の格好の場所となり、被害に遭うことが多いようです。
不法投棄をした者がわからなかったり、その者が倒産している等、不法投棄者に対する責任追及が困難な場合であっても、ゴルフ場は土地所有者として、自らの負担で廃棄物を処理せざるを得ません。土壌汚染対策法では原因者が他にあっても、土地所有者は土壌の汚染除去をすることが法律上義務付けられています。廃棄物処理や土壌汚染除去には多額の費用がかかるため、ゴルフ場にとっては非常に重い負担になります。
このような被害が生じた場合に備え、立法的な手当てもある程度はなされています。不法投棄については、産業廃棄物適正処理推進センターが産業廃棄物の不法投棄に対する原状回復支援事業等を行っており、原状回復に要する事業費の4分の3を助成する等の支援を行っています。土壌汚染についても財団法人日本環境協会が同様の支援を行っています。
「ゴルフ場セミナー」2014年9月号
熊谷綜合法律事務所 弁護士 熊谷 信太郎