平成23年10月以降全都道府県において暴力団排除条例が施行されたにも関わらず、指定暴力団のトップを含む暴力団員が詐欺の疑いで逮捕されたり、PGAの幹部が暴力団員とプレーしたことが社会問題し辞任する等、暴力団絡みの問題が後を絶ちません(本誌平成24年6月号、平成25年11月号参照)。
このため警察は暴力団排除についてゴルフ場に対し一層の協力を求めており、昨年9月には社団法人日本ゴルフ場事業協会(NGK)も加盟ゴルフ場に対しゴルフ場の利用約款等の整備を求めました。
暴力団排除条例は、暴力団が都道府県民の生活や事業活動に介入し、これを背景とした資金獲得活動によって、都道府県民等に多大な脅威を与えている現状に鑑み、都道府県民の安全かつ平穏な生活を確保し、事業活動の健全な発展に寄与することを目的として制定されています。
この条例により、ゴルフ場においても、①ゴルフコンペ・ゴルフプレーや各種取引において、相手方その他関係者が暴力団関係者でないことの確認、②暴力団関係者とのゴルフコンペやゴルフプレー、各種取引等の禁止、③暴力団排除条項の設置、④暴力団関係者への利益供与の禁止等が求められます。
これらに違反した事実が確認された場合、ゴルフ場名が公表されたり、1年以下の懲役又は50 万円以下の罰金等の制裁処置を受けることがありますので注意が必要です。
今回は暴力団排除のための実務的方策について検討します。
クラブへの入会の阻止
多くのゴルフクラブで、入会資格を定めて厳重な入会審査を行い、暴力団等の入会を排除していると思います。ゴルフクラブは原則としてその裁量により会員構成を自由に決定でき、ゴルフ場経営会社は契約自由の原則からクラブにとってふさわしくないと考えられる者との契約の締結を拒否できると考えられます(本誌平成25年12月号参照)
もっとも、無用なトラブルの発生を防ぐためには、暴力団員等の入会拒絶根拠を基準化し、入会資格制限に関する暴力団排除規定を置き、法的に暴力団を排除できる仕組みにしておくことが必須です。
この場合、暴力団の正式な構成員でなくても暴力団と密接に関係する者や企業等を広く排除するため、以下の条項例のように広くかつ詳細に規定することが必要でしょう。
【条項例】
(入会資格)
第○条 入会希望者(譲受人予定者。名義変更予定者・相続人を含む)はが次の各号の一に該当するときは、入会審査を受け付けない。
1 暴力団、暴力団員、暴力団員でなくなったときから5年を経過しない者、暴力団準構成員、暴力団関係企業、総会屋等、社会運動等標ぼうゴロ又は特殊知能暴力集団等、その他これらに準ずる者(以下「暴力団員等」という。)
会員資格の停止・除名
暴力団員等であることを知らずに入会を承認したり、暴排条項を規定する以前に入会を認めた暴力団員等について、後に暴力団員等であることが判明した場合には、会員資格の停止や除名で対応することが必要となります。
除名は会員の会員契約の解除であり、会員資格の停止は会員契約に基づく会員の施設利用権の制限なので、法的な有効性を確かめながら慎重に進める必要があります。
この点、東京高裁平成2年10月17日判決は、傍論ではありますが、「継続的契約である…ゴルフ場施設利用契約において債務不履行を理由として契約を解除するためには、契約関係の維持を困難ならしめる程度に信頼関係が破壊されることを必要とする」としつつ、いわゆる暴力団組員のような者は、ゴルフ場施設内においても粗暴な振る舞いに及んだり他の会員に迷惑を掛ける等、他の会員のゴルフ場施設の快適な利用を妨げる行為に出ることが十分に予測されるから、信頼関係を維持することは困難であろうとしています。
この裁判例からしても、仮に会則で暴力団員であることが資格停止や除名事由として明記されていない場合でも、信頼関係を破壊することを理由に暴力団員であることをもって資格停止や除名ができると考えられます。
とは言え、暴排条項を規定し、積極的に暴力団員等の会員資格を停止・除名する場合の契約上の根拠を提供することが望ましいことは言うまでもありません。
なお、ゴルフクラブと会員の権利義務関係は個々の会員契約において決まるのに加え、集団的処理が必要な部分については会則により規定されています。
もっとも、預託金据置期間の延長等会員契約上の基本的な権利に対する重大な変更を伴う会則の改定は、理事会の決議により一方的に会員に不利益を及ぼすのは妥当ではないことから、既に入会した会員に対しては効力が及ばないものと解されています(最高裁昭和61年9月11日判決)。
しかしながら、暴力団員等の会員資格を停止・除名する内容に会則を改定することは、会員に元々課されているクラブ秩序維持義務を明文化するものであって、一方的に会員に不利益を及ぼすものであるとは言えません。
そもそも前記東京高裁判決の言うように暴力団員等は本来資格停止・除名できるものですから、既に入会した暴力団員等を改定後の規定を根拠に資格停止・除名することも許されると考えられるでしょう。
【条項例】
(会員資格の停止・除名)
第○条 会員が次の各号の一に該当したときは、理事会の決議により会員の資格を一時停止し、又は除名することができる。
1 会則、施設利用約款、規則に違反したとき
2 クラブの名誉及び信用を傷つけ、又は秩序を乱したとき
3 暴力団、暴力団員、暴力団員でなくなったときから5年を経過しない者、暴力団準構成員、暴力団関係企業、総会屋等、社会運動等標ぼうゴロ又は特殊知能暴力集団等、その他これらに準ずる者(以下「暴力団員等」という。)であることが判明したとき
4 暴力団員等を同伴又は紹介によって入場させたとき
5 自ら又は第三者を利用して①暴力的な要求行為、②法的な責任を超えた不当な要求行為、③脅迫的な言動をし、又は暴力を用いる行為、④風説を流布し、偽計を用い又は威力を用いてクラブの信用を毀損し、又はクラブの業務を妨害する行為、⑤その他前各号に準ずる行為を行った場合
利用約款における暴排条項
暴力団員等がビジターとしてプレーの申込みをしてきた場合に備え、暴力団員等の施設利用に対する法的な拒絶根拠を明確にしておくことも必要です。
暴力団員等であることまでは分からないが、粗野な振舞いから暴力団員等であることが強く疑われる場合等も利用拒絶をする必要性は高いので、その場合に備えて利用者の行為態様からも利用拒絶ができる規定にしておくべきです。
この場合、支払済みのプレーフィやキャディフィは返還しないという規定を置くことも必要でしょう。
【条項例】
(利用及び利用継続の拒絶)
第○条 当ゴルフクラブは、次の場合には利用をお断りすることがあります。また、プレーの途中であっても利用の継続をお断りすることがあります。この場合、お支払済みのプレーフィやキャディフィは返還しません。
1 利用者が暴力団、暴力団員、暴力団員でなくなったときから5年を経過しない者、暴力団準構成員、暴力団関係企業、総会屋等、社会運動等標ぼうゴロ又は特殊知能暴力集団等、その他これらに準ずる者(以下「暴力団員等」という。)であるとき
2 利用者が暴力団員等を同伴した場合における利用者及びその同伴者
3 他のお客様に対し不快な思いをさせる行為・服装(身体に刺青をしている場合を含む)・言動があったと当ゴルフクラブが判断した場合
4 粗野な振舞等、当ゴルフクラブの従業員に対して業務の遂行に支障をきたす行為があったと当ゴルフクラブが判断した場合
その他の注意点
これら会則や利用約款等の整備の他、クラブ内やHPで暴力団関係者排除の広告をし、受付票に暴力団関係者かどうかの確認チェック欄を記載する等の工夫も必要です。
過去にビジターとしてプレーした際、暴力団関係者であると判明した者等についてはリストを作成し、次回以降は申込段階でプレーを断る等の方法も有効でしょう。
また、昨今増えているインターネットによる申込みにおいては、申込画面に「当クラブでは、○○県暴力団排除条例及び○○県ゴルフ場防犯協議会ゴルフ場利用約款により、暴力団員及びその関係者、身体の一部に刺青のある方の入場やプレーを一切お断りします。 その旨が判明した場合は、すぐに退場していただきます。」という記載をし、HPからの予約申込画面においても、「予約者のみならずプレーする全員に暴力団関係者は含まれない」をクリックしないと先に進めないといったシステムにするなどの工夫も有効です。
また、コンペを受け付ける場合も同様に、参加者に暴力団員等が含まれないことを幹事が保証する形式の誓約書を取るような方法も有効であろうと思われます。
警察との協力関係作り
警察では、積極的に暴力団排除活動に取り組んでいる事業者に対し、契約相手が暴力団関係者かどうか等の情報を個々の事案に応じて可能な限り提供しているので(各都道府県警宛の警察庁による「暴力団排除等のための部外への情報提供について」)、常日頃から所轄警察署と暴力団排除のための協力関係を築くことが大切です。
来場者がその服装や立居振舞等から暴力団員等と推察される場合、最寄りの警察署(さらに東京都であれば警視庁組織犯罪対策部組織犯罪対策第三課特別排除係や警視庁暴力ホットライン等)に受付名簿記載の氏名・生年月日・住所等を連絡して暴力団関係者かどうかの照会を依頼します。この場合、警察署によっては事前に目的外使用しない旨の誓約書の提出等も必要になります。
この照会は、事業者が行っている暴力団排除に必要な範囲でのみ情報提供がなされるという仕組みになっているので、前記のとおり会則や利用約款における暴排条項において広くかつ詳細に規定することも重要です。
受付の段階で判明せずプレー開始後に暴力団員等であることが判明した場合、利用約款に暴排条項があればこれを根拠に、警察官立会いの下、直ちにプレーを止め全員退場してもらうといった対応が可能です。
前記のとおり利用約款等に暴力団等の施設利用を制限する旨及びプレー中断の際はプレーフィ等を返還しない旨の規定があれば、受領済みのプレーフィ等を全額返金する必要はありません。
約款等にこれらの規定がなければプレーの程度に応じて返金します。もちろん交通費や、仕事まで休んでゴルフに来たのにゴルフ出来ないなら休業損害を支払えといった要求には応じる必要はありません。
「ゴルフ場御セミナー」2014年3月号掲載
熊谷綜合法律事務所 弁護士 熊谷信太郎