日本プロゴルフ選手権の主催や男子ゴルフのシニアツアーの運営などを行う公益社団法人日本プロゴルフ協会(PGA)の現職理事が、本年6月に指定暴力団の会長と、それと知りながら熊本県内のゴルフ場でプレーしていたことが判明し、本年9月に理事を辞任したとして話題になりました。さらに10月には現職副会長も一緒にプレーしていたことが判明しました。
PGAは元理事について、9月17日開催の理事会において、倫理規定に抵触するとして、懲罰諮問委員会の答申に基づき会員資格停止8か月の懲戒処分を決定しました。資格停止は除名や退会勧告に次いで重い処分であり、処分期間中は大会に出場できず、会員を名乗ってのゴルフレッスンもできません。PGAによると、これまでは6か月が最長でしたが、プレー時に原職理事だったことを重く見て8か月にしたということです。
なお、PGAは会員倫理規定の中で暴力団とのつきあいを禁止しており、平成18年と本年2月には「暴力団排除宣言」を出しています。
コンプライアンスとの関係
暴力団等の反社会的勢力の排除はコンプライアンス上の要請です。
コンプライアンスとは、狭義には法令、契約、内部規定などのルール遵守を意味しますが、近年では、企業倫理遵守(法令等を遵守するのみでは足りず、明文化されていない社会的要請への適応も含む)と広義に捉える考え方が有力です。
反社会的勢力を社会から排除していくことは、企業にとっても社会的責任の観点から必要かつ重要なことであり、特に近時のコンプライアンス重視の流れにおいて、反社会的勢力に屈することなく法律に則して対応することや、反社会的勢力に対して資金提供を行わないことは、コンプライアンスそのものであるとも言えます。
なお、近年の暴力団は、組織実態が隠蔽され、資金獲得活動の手口の巧妙化が進んだため、「企業が反社会的勢力による被害を防止するための指針」(平成19年6月19日犯罪対策閣僚会議幹事会申合せ)が示され、反社会的勢力による被害を防止するための基本原則として、①組織としての対応、②外部専門機関との連携、③取引を含めた一切の関係遮断、④有事における民事と刑事の法的対応、⑤裏取引や資金提供の禁止の5つの提言が示されました。
今回は、コンプライアンスの観点から暴力団員のプレーについて検討します。
暴力団員排除の明示
暴力団員個人のプレーは、暴力団対策法や暴力団排除条例により禁止されていませんが、ゴルフ場は契約自由の原則から、暴力団員とのゴルフ場施設利用契約の締結を拒否することができます。
具体的には、クラブハウス内の出入口や各掲示板、HP等において、「当クラブでは、○○県暴力団排除条例及び○○県ゴルフ場防犯協議会ゴルフ場利用約款により、暴力団員及びその関係者、身体の一部に入れ墨のある方の入場やプレーを一切お断りします。 その旨が判明した場合は、すぐに退場していただきます。」ということを明示し、暴力団関係者の利用を断る意思を明確に表示することが必要です。
HPからの予約申込画面においても、「予約者のみならずプレーする全員に暴力団関係者は含まれない」をクリックしないと先に進めないといったシステムにするなどの工夫も有効だと思われます。
ゴルフ場のフロントでの受付の際にも、受付票に「暴力団関係者の利用は固くお断り」であることを明示した上で、さらに受付票に「予約者のみならずプレーする全員に暴力団関係者は含まれない」という欄を設け、プレー客にチェックしてもらうなどの対応も効果的です。
暴力団員であると分かったときにこれらを根拠にプレーを断りやすくなります。
暴力団員のプレーと詐欺罪の成否
「暴力団関係者お断り」のゴルフ場で、会員Aが、知人Bが暴力団幹部であることを隠して一緒にプレーしたことについて、その知人とともに詐欺罪に問われたという事案もあります(本誌平成23年6月号参照)。
この事案において、名古屋地裁平成24年3月29日判決(判決①)は、会員Aに詐欺罪の成立を認め、名古屋地裁平成24年4月12日判決(判決②)は、暴力団幹部Bに詐欺罪の成立を認めませんでした。
両被告人に対して詐欺罪の成否の結論が分かれたのは、両被告人が本件ゴルフ場の会員であるか否か、つまり本件ゴルフ場が「暴力団関係者お断り」であることを両者が知っていたかどうかについての判断の違いによるものです。
この点、会員ではない暴力団幹部Bに詐欺罪の成立を否定した判決②の判断が、一般的な実務感覚や世間の常識から相当ずれたものであることは明らかでしょう。
判決①も指摘しているとおり、暴力団関係者の施設利用は、ゴルフ場に対し計り知れない不利益を与えることになり、暴力団排除条例の施行後、暴力団関係者の施設利用はほとんどのゴルフ場の約款等で禁止されていること、及び暴力団関係者であることがゴルフ場に分かれば施設利用を拒否されるであろうことを、暴力団関係者は十分承知していることは明らかと言えるからです。
とは言え、ゴルフ場における実務的処理としては判決②も踏まえた対応が求められます。
つまり、判決②が判旨した詐欺罪の成立に必要な故意の要件との関係で、「暴力団関係者の施設利用は固くお断り」であるということを、前記のように具体的に意思表示する必要があるということです。
暴力団員が来場したら…
暴力団関係者と思われる人物が来場した場合には、すぐに所轄の警察署に受付名簿の氏名・生年月日・住所等を連絡して、暴力団関係者かどうかの照会を依頼します。暴力団問題の担当部署にゴルフ場の概要を説明し協力を依頼する等、常日頃からの関係作りが大切です。
その結果、暴力団関係者が含まれることが判明した場合には、すぐに所轄の警察署に暴力団排除のための警察官の立会いを依頼し、警察官立会いのもとで、ゴルフ場の利用約款により暴力団関係者は入場及びプレーをお断りしている旨を説明し、もしプレーを始めてしまった後でも、直ちにプレーを止め全員退場してもらう(例えばプレーの前半に判明した場合にはハーフプレーでやめてもらう)といった対応が必要です。
約款等に暴力団関係者の施設利用を制限する旨及びプレーヤー側の事情によるプレー中断の際はプレーフィやキャディフィを返還しない旨の規定があれば、暴力団関係者のプレーを途中でやめてもらう場合でも、プレーヤー側の事情によるものとして、受領済みのプレーフィ等を全額返金する必要はありません。
約款等にこれらの規定がなければプレーの程度(ハーフかラウンド)に応じて返金します。もちろん交通費や、仕事まで休んでゴルフに来たのにゴルフ出来ないなら休業損害を払えといった要求に応じる必要はありません。
プレーを断ったところ、暴力団員が納得せずフロントで騒ぐ場合は、暴力団員を会議室等の別室に通すことになりますが、暴力団員との対応内容を正確に記録します。
この際、暴力団員に記録を咎められたとしても、対応状況を上司に報告する必要があると説明し、咎められた事実も記録します。
プレーを断る理由を説明しても同じ話を繰り返すのであれば、何度か退去を促した上で最終的に警察に連絡する旨宣言し、なお居座るようであれば不退去事件として110番通報します。この際、退去を促した時刻も細かく記録しておきます。
警視庁や都道府県警察本部では業種別、企業単位での責任者向けに「不当要求防止責任者講習」を実施しているので、組織犯罪対策本部や捜査第四課などの暴力団対策担当部署に相談してみるのもよいでしょう。
入れ墨(タトゥー)による入浴許否
本年9月、ニュージーランドの先住民族マオリの言語指導者の女性が、北海道の民間の温泉施設で顔の入れ墨を理由に入館を断られていたことが報道され問題となりました。
女性側は「反社会的な入れ墨とは異なる部族の伝統文化であり差別ではないか」と抗議しましたが、施設側は「入れ墨が見えれば一律で断っている」と説明したということです。
ゴルフ場のお風呂場では、「入れ墨お断り」が多いと思います。
我が国では、入れ墨をファッションとしている芸能人やスポーツ選手も増えてきているとはいえ、反社会的勢力とのつながりを連想させ、入れ墨に対して威圧感や恐怖感を感じる人が多いと思われるため、このような規制がされているのです。
マオリ族の入れ墨は部族の伝統とのことであり、その有する意味合いは日本の暴力団の入れ墨とは異なっているようですが、文化的背景のある入れ墨かどうかを客観的に区別することは実際上困難でしょう。
いわゆる銭湯において多く取られている入れ墨禁止の合理性については、家庭での内風呂が普及しているとはいえ、銭湯が日常生活で保健衛生上必要な入浴施設であることから賛否両論争いのあるところです。
これに対し、ゴルフは趣味的に行われるスポーツであって生活必需のものでないことや、お風呂に入らないでラウンドだけすることも可能であること、入れ墨に対するゴルファー一般の拒否反応が相当強くゴルフ場に風評被害が生じる可能性が高いこと等を考えると、同好の士の集まりであるゴルフ場のお風呂における入れ墨の一律禁止には、現時点では一定の合理性があり許容されるものと思われます。
ゴルフも東京オリンピックの競技種目となり、入れ墨のある民族や外国人観光客の来場も予想されますが、入れ墨による入浴の一律禁止については、入れ墨に対する今後の社会通念の変化により判断されることになるでしょう。
暴力団との契約や不当要求
契約の相手方が暴力団のフロント企業であることが判明した場合、契約締結前であれば契約自由の原則から拒絶が可能です。
なお、契約書に反社会的勢力排除条項を入れることは必須です。契約係属中に相手方が暴力団関係者であることが判明した場合でも、これを根拠に契約を解除できるからです。
また、NPO法人や社会活動団体を名乗り、寄付金や賛助金の要求や、機関誌の購読要求等がなされることもありますが、支払う(購入する)必要が無いと考えるのであれば毅然とした態度で断ることが大切です。弁護士による拒絶通知等も有効です。
強引な場合、刑事上は強要罪、不退去罪、業務妨害罪による告訴、民事上は面談強要禁止、架電禁止の仮処分申立て等が考えられます。
なお、相手方が機関誌等を強引に置いていったような場合には、電話や内容証明で引取りに来るよう要請し、期限までに引取りに来ない場合は書留郵便で返送するとともに返送料を請求します。
また、相手方が機関誌等を送付してきた場合には断固として受け取らず、ポストに投函されていたときは「受け取り拒否」と記載したメモを貼り押印してポストに投函します。
この点、特定商取引に関する法律59条では、商品が届いた日から14日又は消費者が商品引取りを業者に依頼した日から7日を経過するまでに業者が引取りに来ない場合は、業者はその商品の返還を請求できなくなりますので、その後は勝手に処分することが可能です。
「ゴルフ場セミナー」2013年11月号掲載
熊谷綜合法律事務所 弁護士 熊谷 信太郎