本年4月、バドミントン男子の日本代表選手9名が、違法カジノ店に出入りしていたことが明らかになり、無期限の協会登録抹消、代表選手の指定解除等の処分を受けました。大相撲界では平成22年に野球賭博が、平成23年には八百長問題が発覚しています。プロ野球界では昨秋以降、3名の選手が野球賭博で日本野球機構により失格処分を受けています。
一方、平成27年4月には、衆議院にIR推進法案(いわゆるカジノ法案)が再提出され、訪日外国人観光客(インバウンド)を集めるプロジェクトの一つとして、日本国内への統合型リゾート(国際会議場やホテル、商業施設、レストラン、スポーツ施設、温浴施設等にカジノを含んで一体となった複合観光集客施設)の設置が注目されています。
ゴルフにおいては、プレーヤー同士で食事やお酒、チョコレートを賭けるいわゆるベットは、伝統的に多くのゴルファーに親しまれてきています。
賭博については以前本誌でも取り上げましたが(平成26年1月号)、近年スポーツ界で問題となっているのを受け、許される賭博と禁止される賭博の違いの観点から再度検討します。
賭博とは
賭博とは、金銭や品物などの財物を賭けて、偶然性の要素が含まれる勝負を行い、その勝負の結果によって、負けた方は賭けた財物を失い、勝った方は(何らかの取り決めに基づいて)財物を得る、という仕組みの遊戯(ゲーム)の総称です。
賭博は、人の射倖心をくすぐり、時に中毒的な依存状態を招き、違法賭博が暴力団の資金源になるなど、社会問題も多く内包します。
そこで、賭博行為は、刑法上賭博罪(単純賭博罪)として50万円以下の罰金又は科料に処せられます(刑法185条)。さらに重い常習賭博罪は3年以下の懲役(刑法186条1項)、賭博場開張等図利罪(賭博場を開張し、又は博徒を結合して利益を図る罪)は3月以上5年以下の懲役となります(同条2項)。なお、開張とは宣伝の意味であり、特定の場所に人を集める必要はありません(電話による野球賭博等)。
この刑罰は何を守ろうとしているのかについて(保護法益)、判例・通説は、公序良俗、すなわち「健全な経済活動及び勤労と、副次的犯罪の防止である」としています(最高裁昭和25年11月22日判決)。
当事者双方が危険を負担すること
「賭博」とは、「偶然の事情に関して、当事者が財産上の得失を勝負し合うもの」であると解されています。
すなわち、賭博罪が成立するためには、当事者双方が危険を負担すること、つまり、当事者双方が損をするリスクを負うものであることが必要です。
したがって、例えば、パーティーなどでよく行われるビンゴゲームや、パー3ホールによくあるホールインワンしたらビール1年分など広告主提供の賞品を与えるといった企画のように、当事者の一方が景品を用意するだけで片方は負けても損をしない場合には(仮に参加費を徴収する場合であっても、参加費はパーティやコンペでの飲食等の対価と認められれば)、偶然の事情に関してはいるものの、当事者双方が危険を負担しているとは言えないので、賭博罪にはあたらないと考えられます。
なお、イカサマ賭博等賭博の参加者が詐欺的手段を用いた場合のように、勝敗が一方当事者によって全面的に支配されている詐欺賭博は詐欺罪を構成し、賭博罪は成立しないとされています(最高裁昭和26年5月8日判決)。
一時の娯楽に供する物
もっとも、形式的には賭博罪(単純賭博罪)に該当する場合であっても、「一時の娯楽に供する物」を賭けたにすぎない場合には賭博罪は成立しません(刑法第185条ただし書)。
この「一時の娯楽に供する物」とは、一般的に「関係者が一時娯楽のために消費する物」をいうと解されており、食事やお酒、お菓子などその場ですぐに消費してしまうものがこれにあたると解されています。
判例は、賭けた財物の価格の僅少性と費消の即時性の観点から、「一時の娯楽に供する物」なのかどうかを判断しています。
金銭については、その性質上「一時の娯楽に供する物」には該当しないとするかなり古い判例があり、賭金が300円でも「一時の娯楽に供する物」とは言えないとしています(最高裁昭和23年10月7日判決)。が、現代においてはこの判例の射程距離がどこまでかは疑問が残るところです。
違法阻却
一般に、法令に基づいて行われる行為や社会通念上正当な業務による行為は、刑法35条の「法令又は正当な業務による行為」として、違法性が阻却されます。
賭博罪においても、賭博に該当する行為について、他の法律においてこれが行われることを許容したり、これが行われることを前提として規制を行ったりしている場合は、違法性が阻却されます。
例えば、競馬は競馬法、競艇はモーターボート競走法、宝くじは当せん金付証票法、お年玉付郵便はがきはお年玉付郵便葉書等に関する法により合法とされています。
また、パチンコやスロット、カジノバー等は風俗営業等の規制及び業務の適正化等に関する法律(以下「風営法」)により合法とされています。
合法カジノと違法カジノ
カジノバーとは、トランプ台やルーレット台など専ら海外のカジノに設置されている遊技設備を設けて客に遊技させる遊技業で、風営法が定義する風俗第8号営業の業態の一つです。カジノバーを営業するに当たっては、風俗第8号営業の営業許可が必要となります。
カジノバーで行われている遊技の殆どは、海外のカジノで行われているゲームですが、日本においては、カジノのようにゲームに使用するチップ等を換金することは、上記の賭博罪にあたり許されません。
風俗営業としてのパチンコ営業では、客が遊技の結果で得た玉などを賞品と交換しますが、カジノバーでは遊技に使用するチップなどを賞品と交換する行為も禁止されています(風営法23条2項)。
つまり、冒頭の違法カジノとは、風俗第8号営業の営業許可を取得していない業者、或いは営業許可を取得した合法営業であることを隠れ蓑として、密かにチップの換金や賞品との交換等の違法営業を行う業者のことを言うわけです。
なお、パチンコの「賞品」が「一時の娯楽に供する物」から外れてしまうと違法な賭博営業に近づいてしまうため、営業者に、現金や有価証券を賞品として提供することや客に提供した賞品を買い取ることを禁じ(風営法23条1項)、賞品の価格の最高限度に関する基準(平成28年4月現在、最大賞品価格は9,600円で消費税込み10,368円)に従った営業を義務づけ、パチンコの射幸性を抑制しています。
コンペの賞品やベット
では、ゴルフコンペで成績優秀者や参加者に賞品を進呈する場合や、ゴルファー同士でベットをする場合、これらは賭博罪として違法となるのでしょうか。
まず、懇親ゴルフコンペやホールインワン・イベント等が参加費不要である場合には、お互いに勝負し合っている当事者同士の財産上の得失、損害、利益というものはない(当事者双方が損をするリスクを負うものではない)ので、賭博罪にはあたらないと考えられます。
では、プレーヤーが参加費を支払って開催されるゴルフコンペや、プレーヤー同士のベットはどうでしょうか。
この点、実力がある程度勝負を左右するとは言え、ゲーム時のコンディションなど偶然の要素が作用するので、コンペで賞金や賞品(一時の娯楽に供する物にあたらない高額賞品)を出したり、プレーヤー同士でベットをする場合、賭博罪に該当する可能性は否定できないとする見解もあります。
しかしながら、自然の中のスポーツゆえ多少の偶然性が介在するとは言え、ゴルフはプレーヤーの技能と技量が勝敗の全般を左右するものであって主として偶然によって勝負が決まるものではありません。
例えば、参加費を支払うパー3のワンオンチャレンジには、ワンオンすれば賞品が貰える代わりに、失敗すると何も貰えないかグレードの落ちる賞品になるケース等様々ありますが、主としてゴルファーの技量によって結果が左右されるものですので、「偶然性の事情に関し」の要件を欠き、ワンオンチャレンジは賭博罪に該当しないと考えるべきでしょう。これに対し、ホールインワンに高額賞品をかけて参加費を取って集客するようなケースにおいて賭博罪が成立するとした韓国の裁判例があるようですが、ホールインワンの偶然性からワンオンチャレンジとは別に考えるのもやむを得ないと思われます。
社会的相当性
結局、あらゆるコンペ等の賞品やベットが賭博罪に該当するのではなく、その態様や掛け金の額(賞品の金額)、参加者の属性等によって実質的違法性の有無を判断し、社会的相当性を逸脱した場合に賭博罪に該当すると判断することがゴルファーの常識と法の接点になるのではないかと思います。
先に引用した最高裁平成23年判決は、金銭はその性質上「一時の娯楽に供する物」には該当しないとし、賭金が300円でも賭博にあたるとしていますが、ベットの結果食事やお酒を奢ることは一時の娯楽に供するものとして賭博罪は成立しないのに、食事代や酒代としてお金を渡すと賭博罪となるのでは、余りにも形式論に過ぎると言わざるを得ません。
クラブ内の仲間での食事や酒代程度の少額のベットは社会的相当性を逸脱せず処罰すべき実質的違法性を欠き賭博罪にはあたらない場合が多いと思われます。
これに対し、元参議院議員で有名女子プロゴルファーの父であるY氏が暴力団関係者などと日常的に高額の賭けゴルフをしたことは、裁判において真実と認められており(東京高裁平成23年(ネ)第300号)、反社会的勢力という参加者の属性や金額、回数等から社会的相当性を逸脱し、賭博罪に該当する事例と言わざるを得ません。
また、ゴルフコンペの優勝者を当てる等プレーヤーの成績に対して賭けるいわゆる馬券を買う行為も、賭け金の額や参加者の属性等により社会的相当性を逸脱していると言えるような場合には、参加者に賭博罪が成立し得ますし、ゴルフ場や幹事等の主催者には賭博場開帳等図利罪が成立し得るでしょう。
ゴルフ場の注意点
ゴルフ場が参加費を徴収してオープンコンペを主催する場合も、参加者の属性や賞品の額により社会的相当性を逸脱していると言えるような場合には、ゴルフ場に賭博場開帳等図利罪が成立する恐れがあります。
したがって、なかなか難しいことではありますが、参加者に反社会的勢力に属するような者が含まれていないか等を事前に確認し、賞品等は高額にならない配慮が必要です。
なお、不当景品類及び不当表示防止法品表示法(いわゆる景品表示法)により、取引価額に応じて景品類の最高額が決められていますので、注意が必要です。
例えば、ゴルフコンペの参加費等が5000円以上の場合、景品類の最高額は10万円、総額は売上予定総額の2%などとされています(懸賞による景品類の提供に関する事項の制限平成8年2月16日公正取引委員会告示第1号)。
「ゴルフ場セミナー」2016年6月号掲載
熊谷綜合法律事務所 弁護士 熊谷 信太郎