熊谷信太郎の「自然災害」

本年4月14日に熊本県で震度7を観測する地震が発生して以降、熊本県と大分県で相次いで地震が発生しており、本稿執筆時点においても依然として予断を許さない状況が続いています。被災者の皆様に心よりお見舞い申し上げます。

この地震の影響で、4月15日から開催する予定だった国内女子ツアーも中止、また被災地周辺のゴルフ場では予約のキャンセルが相次ぎ、休業に追い込まれる等の問題が発生しています。

今回は自然災害に伴って生じるいくつかの法律問題を取り上げます。

 

利用者との関係

①プレーの中止と料金

地震が発生し、地割れが起こりプレーできなくなってしまった、というような場合、民法上の危険負担の原則からは、プレーできなくなってしまった分のプレー料金は請求することができません。すでにプレーが終わった分については、既に回り始めたハーフの分のみ料金を請求する場合や、全く請求しないケースも実務上の扱いとしてはあると思います。利用約款でこのような場合の取り扱いを定めているのが一般的なので、それに従うことになります。

②予約のキャンセル

ゴルフ場周辺で余震が続き、顧客が安全にプレーできる状況を確保することが難しい状況であると判断してゴルフ場がクローズを決定した場合には、不可抗力によるものとしてゴルフ場に債務不履行責任は発生しないものと考えられます。

例えば大きなコンペ等が開催できなくなったとしても、原則としてコンペ主催者に対してゴルフ場で補償等をする必要はないことになります。

一方、ゴルフ場は安全性を確認しクローズしていない状況で、利用者の判断で予約をキャンセルする場合もあり得ます。実際に請求することはあまりないかもしれませんが、約款上はキャンセルフィーを請求できる場合があります。この場合、利用者からデポジット(予約金)を預かっていれば、キャンセルフィーとの差額を精算することになります。但し、「平均的な損害の額」(同じ事業者の同種類の契約が解除された場合を想定し、その場合に生ずる平均的な損害額)を超える高額なキャンセルフィーを定めた条項は、消費者契約法9条1項により無効とされますので注意が必要です。

③怪我をした場合

地震のせいでクラブハウス等が倒壊し、利用者が怪我をしたというような場合、クラブハウス等が通常備えるべき安全性を有していたかどうかが問題となります。通常備えるべき安全性を有していれば、ゴルフ場に責任はない、ということになります。従来は、少なくとも震度5程度に耐えられる構造になっているかどうかというのが一つの基準だったと思われます(例として仙台地裁平成4年4月8日判決)。しかし現在、震度6弱以上の地震も決して珍しいことではありませんし、耐震・免震の技術も進歩しています。ゴルフ場側に要求される水準も高くなる可能性があります。

④ゴルフ場のクローズ

地震による経営悪化を理由に、廃業や業種転換(例えば大規模太陽光発電建設)は許されるでしょうか。

会員制ゴルフ倶楽部の場合には会員保護の観点から、クラブを解散しての業種転換が無制限に認められるものではありません。

このことは、仮に会則に「会社はいつでも本倶楽部を解散することができる」といった規定がある場合であっても同様です。裁判例においても、会員にとって不利益を伴うゴルフクラブの解散を経営会社の機関(理事会)の決議のみによってすることを是認するに足りる客観的かつ合理的な事情の存する場合にのみ解散が許されるとしたものがあります(東京高裁平成12年8月30日判決)。

一方、会則等に解散規定がなくても、事業の継続が客観的にみて不可能で事業者に責のないやむを得ない事情に基づくような場合にまで一切解散は認められないとすることは事業者に酷を強いることになります。裁判例でも、会員契約の解除が、経営会社の経営努力にもかかわらず、経営成績の悪化、会員数の減少…等により、経営の継続が困難となったために行われた等の事実関係においては、解除はやむを得ない事情によるものであり会員契約上の債務不履行に当たらないと判断したものがあります(東京地方裁判所平成10年1月22日判決)。

これらの裁判例を前提に考えると、地震により壊滅的なダメージを受けコースの修復に膨大な費用を要する場合や集客が著しく困難だというような場合は、事業の継続が客観的にみて不可能であって事業者に責のないやむを得ない事情に基づくものとして、会員契約の会社側からの解除は有効であり、会員契約上の債務不履行にはあたらないことになります。

もっとも、ゴルフ倶楽部を解散して事業者が会員との会員契約を解除する場合、事業者は会員に対し利用できない分に応じて年会費を返還するとともに、預託金制であれば預託金も返還する必要があります。

入会金の返還については入会金の性質と絡み争いがありますが、上記平成12年東京高裁判決は入会金不返還条項に基づいて返還しないことを有効と判断しています。

預託金の全額返還が困難であれば破産手続や民事再生手続等により預託金返還債務の減免を受ける必要が生じます。

 

従業員との関係

①休業補償

労働基準法では、使用者(企業)の責めに帰すべき事由による休業の場合には、企業側は、休業期間中当該従業員に対して、その平均賃金の6割以上を支払わなければならないと定められています(法26条)。これに違反した場合には30万円以下の罰則が科される場合があります。

この「責めに帰すべき事由」については、広く使用者側に起因する経営上の障害を含むものと解されており(ノース・ウェスト航空事件判決)、使用者側に起因するとはいえない天災地変等の不可抗力を除いて、これに該当すると解釈されています。

地震等の天災地変は不可抗力の典型と考えられますので、余震が続き休業に追い込まれたようなケースは、客観的に休業の必要があるものとして、使用者の責めに帰すべき事由によらない休業と認定される場合が多いものと考えられます。

そこで、就労できなかった時間分について、給与から控除することができることになります。

仮に年俸制を採用している場合であっても欠勤控除は可能と考えられます。この場合の計算方法については、特段の定めがあればそれに従うことになりますが、この特段の定めは労務の提供がなかった限度で定める必要があります。

特段の定めがない場合は、欠勤1日につき年俸額を年間所定労働日数で除して得た日額を控除するのが妥当と思われますが、この際、賞与分を含めて算定するかどうかは取決めによりますので、就業規則(賃金規定)を整備することが必要です。

なお、先般の東日本大震災の際には、電力会社による計画停電が実施されましたが、計画停電による休業についても、厚労省の通達により、使用者の責めに帰すべき事由には該当しないものとされており、計画停電の時間帯については、企業は給与支払義務を負わないことになります。

もっとも従業員の就労が不可能となった場合であっても、従業員が有給休暇を消化することは可能であり、この場合には有給休暇を消化してから欠勤控除をすることになります。

なお、災害による休業を余儀なくされた場合、実際には離職していなくとも、当該従業員は、雇用保険上の失業手当を受給できるという特例措置が定められています。

②欠勤

ゴルフ場は通常通りの営業を行っているが、従業員が通勤できない等、従業員には過失がないものと考えられ、その欠勤を理由に解雇することはできません。その反面、当該従業員に対する給与支払義務は、従業員の労務の提供が不可抗力により不可能となった場合にあたり、消滅することになります(民法536条1項)。

したがってこのような場合、原則として、不就労時間に対応する給与部分については、企業に支払義務は生じません。

③減給

地震による経営悪化を理由として、減給をすることが許される場合もあります。例えば就業規則で給与が定められる場合、就業規則を変更することになりますが、労働者にとって不利益な変更となる場合であっても、その変更が合理的なものであれば、個々の労働者もこれに従わなければならないものとされます。

問題は変更が合理的なものと言えるか否かですが、変更の内容(不利益の程度・内容)と変更の必要性との比較衡量を基本とし、不利益の程度・内容の酌量において変更との関連で行われた労働条件改善の有無・内容を十分に考慮に入れるとともに、変更の社会的相当性や、労働組合との交渉経過、他の従業員の態度などをも勘案し判断することになると考えられます。

④解雇

地震による経営悪化を理由として、一部の従業員を解雇することが許される場合もあります。いわゆる整理解雇の一種ですから、人員削減の必要性、人員削減の手段として整理解雇を選択することの必要性、被解雇者の選定の妥当性、手続きの妥当性を考慮して解雇の有効性が判断されます(労働契約法16条)。地震によって甚大な被害が出ているような場合には、解雇もやむを得ず有効と判断される場合が多いと考えられますが、労働者に特に大きな影響を与える行為であり、慎重に、誠意をもって行わなければならないことは言うまでもありません

⑤労災保険

労災が認定されるには、業務遂行性(会社、雇い主、事業主や会社の上司等の支配下の状態にあること)と業務起因性(就いていた仕事に伴う危険性が具体化すること)が必要であると解されています。

天災地変は不可抗力的に発生するものであって、事業主の支配、管理下にあるか否かに関係なく等しくその危険があるといえ、個々の事業主に災害発生の責任を帰することは困難であるため、このように考えられています。

そこで、従業員が業務中に地震に遭遇し怪我したような場合、原則として業務上の災害とは認められないと考えられます。

もっとも、業務の性質や内容、作業条件や作業環境等の状況からみて、かかる天災地変に際して災害を被りやすい事情にある場合には、天災地変に際して発生した災害についても業務起因生を認めることができると考えられています。

そのため、従業員から労災給付申請があった場合、企業としては、地震によるものであることを理由に一律に協力しないのではなく、個別の事案ごとに慎重に対応すべきであると考えます。

 

その他の問題

①株主総会の問題

12月決算や3月決算の会社は、定時株主総会の開催に支障を来す可能性があります。別途公告等が必要になりますが、基準日を変更することにより定時株主総会の時期をずらして開催することも会社法上可能と考えられます。

②税金等の問題

被災資産の評価額の損金算入、災害損失金の繰越控除といった法人税の減免措置制度があります。今回の地震で被害を受けた熊本県については申告期限・納付期限の延長等が認められています。労働保険料、社会保険料及び障害者雇用納付金などの納付期限の延長・猶予等も行われています。

「ゴルフ場セミナー」2016年7月号掲載
熊谷綜合法律事務所 弁護士 熊谷 信太郎