熊谷信太郎の「派遣切り」

一昨年に放映された「ハケンの品格」という人気ドラマでスーパー派遣社員が大活躍し、「派遣」という働き方が脚光を浴びた時期もありました。しかし、最近の経済情勢の急速な悪化により、今では「派遣切り」が深刻な社会問題となっています。

ゴルフ場業界においても派遣が一般化しており、ゴルフ場も「派遣切り」と無縁ではいられません。

「派遣切り」に関する議論の中には「派遣切りはけしからん」として、派遣先の会社に非難の矛先が向くこともあるようです。

しかし、「派遣切り」は派遣先による解雇ではありません。派遣元と派遣先との間の派遣契約によって定められた期間が満了し、あるいは契約が解除されたことによって派遣は終了しますが、労働者と派遣元との雇用関係に直接の影響はありません。

日本では、後述するように解雇が厳しく制限されており、正社員だけでは要員の波動に機動的な対応ができません。

派遣は、極論すれば、人員削減が必要な時に備えて設計された制度であり、実際上「雇用の調整弁」として機能し、自由経済のメカニズムの中で非常に重要な役割を果たしているのです。

各企業は、いつでも雇用を調整できる代わりに、高い単価を支払って派遣を受けています。「派遣切り」という言葉を用いて、まるで派遣先に責任があるかのようなイメージを植え付けてしまうマスコミの言葉遣いには疑問もあります。

ゴルフ場における派遣の典型例はキャディーの派遣です。季節や予約の入り方に応じてキャディーの人数を調節できるため、ゴルフ場にとっては大変便利な仕組みです。

最近は大不況により接待ゴルフが激減し、キャディー付きのプレーもニーズが低下しています。このようにキャディーの人手が余ってしまう場合でも、派遣キャディーであれば、派遣を終了させれば良いだけです。

しかし、会社所属のキャディーの場合、労働力に余剰が生じたときの対応は容易ではありません。仕事もないのにただ待機させるのでは会社としては大変非効率ですし、そうかといって毎日除草作業をさせるわけにもいきません。

このような場合、会社はキャディーを整理解雇することが考えられます。また、短期の雇用契約に切り替えておき、キャディーが不要になった場合にはその後契約の更新をしないという方策も考えられます。

そこで今回は、解雇・雇止めについて説明したいと思います。

 

解 雇

民法上、期間の定めのない雇用契約については、労働者には辞職の自由が、使用者には解雇の自由が認められています。

しかし、立場の弱い労働者を保護するため、労働基準法は産前産後や業務災害の場合の解雇を制限し、解雇予告が30日前までになされなかった場合の予告手当支払義務を定めています。

また、使用者の解雇権の行使が客観的合理的理由を欠く場合には解雇権を濫用したものとして解雇は無効となります(労基法18条の2)。

そして、経営上の必要性に基づく整理解雇の場合には、その客観的合理性については、以下の4要素を総合考慮して判断するものとされています。

①経営不振・不況などにより、人員削減が必要であると認められるか(人員削減の必要性)

②配転や希望退職者の募集をするなどして整理解雇回避のために真摯な努力をしたか(手段として整理解雇を選択することの必要性)

③客観的合理的基準を設定しそれを公正に適用して解雇対象者を選定したか(被解雇者選定の妥当性)

④労働組合や労働者に対し、整理解雇の必要性と時期・規模・方法について納得を得るために説明を行い、それらの者と誠実に協議をしたか(手続きの妥当性)

ゴルフ場で整理解雇を行う場合にも、これらの4要素を念頭に置いて実施する必要があります。

 

Yカンツリー倶楽部事件(津地裁四日市支部昭和60年5月24日判決・労民36巻3号336頁)

ゴルフ場経営会社の行ったキャディー全員の整理解雇に経営上の必要性があるか否かが争われた事例があります。

このゴルフ場では、年会費や名義書換料は会社ではなく倶楽部の収入とされていました。

会社自体は赤字であり、会社は経営危機を理由として雇用するキャディー全員を解雇しました。

ところが、裁判所の認定によれば、会社と倶楽部は一応別個の団体ではあるものの、倶楽部の収入金をその必要に応じて会社の経営資金にあてるなどしており、実質的には、会社と倶楽部は一体であり、会社は大幅な黒字であって経営危機になく、キャディーの解雇には経営上の必要性がありませんでした。

また、会社取締役と倶楽部理事で構成される合同役員会の席上突然キャディー制度廃止案が提案されたのですが、会社は、十分な調査や検討も行わないまま臨時会員総会に諮って短絡的にキャディー制度を廃止し、労働組合に対して一方的に全キャディーの解雇を通知したのです。

このような具体的事情のもとでは、整理解雇の4要素はいずれも満たされていません。裁判所が整理解雇を無効としたのは当然の結論であったと思われます。

 

雇止め

期間の定めのある雇用契約の期間満了をもって雇用契約を終了させ、それ以降契約を更新しないことを雇止めといいます。

期間の定めのある雇用契約の期間が満了すれば、雇用契約は当然に終了するのが民法上の原則ですが、その後も労働者が労働を続け、使用者が異議を述べない場合は黙示の更新があったものと推定されます。

黙示の更新がなされると、期間の定めのない契約に変わるという考え方と、従前と同じ期間の契約として更新されるという考え方があります。

ところで、短期の雇用契約であっても、反復継続してその契約が更新された場合、その更新が明示・黙示のいずれによるものであっても、労働者がその後の雇用継続に期待を抱くことがあります。

判例によれば、このような場合の雇止めについては、解雇権濫用法理が類推適用されます。

すなわち、期間満了に伴う雇用契約を終了させるためには、客観的合理的な理由のある更新拒絶の意思表示をする必要があり、もし客観的合理的な理由のある更新拒絶の意思表示がなされない場合には、雇止めは認められず、雇用契約が自動更新されるのです。

ゴルフ場で雇止めを行う場合も、労働者との間の契約が反復継続して更新され、労働者が継続雇用の期待を有していると認められる場合には解雇権濫用法理が類推適用されます。

そこで、使用者が後日の雇止めができなくなることを避けるために、契約時に継続雇用の期待を生じさせないよう言動に注意する必要があります。また、契約期間満了時に更新をするにあたっても、単に形式的な手続きにとどめることなく、十分に契約内容を納得させた上で雇用契約を更新する必要があります。さらに、処遇の面でも継続雇用を前提としないよう注意する必要があります。たとえば、任命した役職の任期が雇用期間満了後まで続くことが予定されている場合、労働者が雇用継続を期待してもやむを得ない一事情ということができます。

なお、契約更新の際に「今回限り」との特約が付されることがあります。使用者と労働者との間で真にそのような合意が成立したと認められれば、その特約は有効です。しかし、労働者側で契約更新を期待するような事情がある場合、合意は真意に基づくものではなく、特約は無効とされる恐れがあります。

また、業務委託契約の更新拒否については、解雇権濫用法理が類推適用されることはないのが原則です。しかし、業務委託とは名ばかりで、受託者が、業務を断る自由もなく、委託者から具体的な指揮命令を受けているような場合には、形式的には業務委託契約であっても、実質的には雇用契約であると判断され、業務委託契約の更新拒否にあたり、解雇権濫用法理が適用される可能性もあります。

 

H国際カンツリー倶楽部事件(横浜地裁平成9年6月27日決定・労判721号30頁)

Aさんはパートキャディとして会社に勤務していました。当初の5年間は期間の定めがなかったのですが、途中から期間を1年とする雇用契約となりました。

就職から7年9か月後、会社は①上司のキャディーマスターや会社を批判するなどの越権行為がある、②自己の考えを強く主張して強調性に乏しく専断行為がある、③不当な文書を配布したというビラ配布行為がある等として、Aさんを雇止めにしました。

裁判所は、Aさんの雇用契約が反復して更新されたため、従前の期間の定めのない雇用契約が継続するのと実質的に異ならない状態となっている等の理由で、Aさんが期間満了後も雇用を継続すべきものと期待することに合理的理由があるものと認めました。

Aさんの雇用契約の更新を拒絶することは、実質上には解雇と同視されるので、解雇が許される場合と同等の事由の存在が必要です。

裁判所は、①そもそも会社が主張するような批判行為をAさんがしたとは認められないが、仮に認められたとしてもやむを得ない行為である、②具体的にどのような専断行為をAさんがしたのか明らかにされていない、③Aさんが配布した文書は業務執行のための補助文書であってビラではなく、その他会社が主張するようなAさんのビラ配布は認められない等の理由で、会社による雇止めは解雇権の濫用であり無効であると判断しました。

 

K高原事件(大阪地裁平成9年6月20日判決・労判740号54頁)

B氏は会社が経理するゴルフ場に臨時作業員として入社しましたが、プロテスト合格を機に、正社員となり、所属プロとして勤務していましたが、B氏は、プロゴルファーとして競技会に参加する必要があったことや他の練習場でレッスンをしていたことなどから、その労働実態は、就業規則の規定や他の正社員の労働状況とはかけ離れたものになっていました。

そこで会社は、B氏との契約を期間1年とする嘱託契約に切り替え、以降4年間、更新をしないまま嘱託契約が続いていました。

その後会社は、①B氏は社外レッスンについて会社の承認を得ておらず、レッスンのため出勤日数も少ない、②タイムカードの打刻を怠るようになった、③プロゴルファーとしての実績に見るべきものがない、④B氏所有の自家用車のガソリン代が未清算である等として、B氏を雇止めにしました。

ところが裁判所は、B氏と会社の間の嘱託契約は黙示の更新がなされ期間の定めのないものに転化していると認定した上で、①B氏の社外レッスンは会社も認めていた、②B氏の場合、出退社時間はさほど重要でない、③B氏の給与に競技会での活躍を通じた貢献に対する報酬が含まれているとは言い切れない、④B氏は、ガソリン代清算に関する経理処理に関与していない等の理由から、会社がB氏を解雇したことは解雇権の濫用であって無効であると判断しました。

「ゴルフ場セミナー」2009年9月号掲載
熊谷綜合法律事務所 弁護士 熊谷 信太郎