熊谷信太郎の「暴力団排除(2つの名古屋判決の事案を素材に)」

紳士のスポーツと言われているゴルフですが、近年ではゴルフも大衆化し、日本での年間ラウンド数は8000万回を超えていると言われており、オリンピックの正式種目にもなりました。

ゴルフはとても面白いスポーツなので、いろいろな人がゴルフを好んでいます。いわゆる反社会的勢力に属する人たちもその例外でなく、ゴルフ好きが多くいるようで、彼らは各種規制にも関わらず、何とかしてゴルフがしたいと思っているようです。

しかし、暴力団関係者によるゴルフ場の利用は、ゴルファーにとってもゴルフ場の側にとっても、大変迷惑な行為です。ゴルフ場にやくざ風の男がうろうろしていたら、ゴルファーはとても嫌な感じがするでしょう。ゴルフ場も何とかして撃退したいと思っているところだと思います。

今回取り上げるのは、「暴力団関係者お断り」のゴルフ場で、そのゴルフ場の会員が、知人が暴力団幹部であることを隠して、その知人と一緒にプレーしたことについて、その知人とともに、詐欺罪に問われたという事案です。

ゴルフ場としてどんな対応が望ましのかも含めて、検討したいと思います。

 

2つの名古屋地裁判決

本事案は、長野県内のゴルフ場の会員である被告人Aが、平成22年10月13日、暴力団組員の被告人Bと一緒に、同人が暴力団組員であることを隠して一緒にプレーしたことについて、両被告人について、詐欺罪の成否が問題となったものです。

この事案で、名古屋地方裁判所平成24年3月29日判決(以下では、名古屋地裁判決①と言います)は、被告人Aについて詐欺罪の成立を認め、名古屋地方裁判所平成24年4月12日判決(以下では、名古屋地裁判決②と言います)は、被告人Bについて詐欺罪の成立を認めませんでした。

以下、それぞれの判決を少し詳しくみていきましょう。

 

詐欺罪の成立を認めた裁判例

まず、名古屋地裁判決①は、㋐被告人Aが、本件ゴルフ場が暴力団構成員の入場及び施設利用を禁止していることを認識しながら、被告人Bが暴力団構成員であることを秘し、本件ゴルフ場の施設を利用したこと、及び㋑被告人Aは利用料金を通常どおり支払ったことを認定しました。

そして、本件ゴルフ場が暴力団構成員の入場及び施設利用を禁止している理由について、「本件ゴルフ場に暴力団構成員が出入りすることを許可すれば、同所が暴力団の社交の場となり、暴力団と無関係な一般人がその利用を敬遠するようになったり、暴力団と関係のある企業としてその信用が著しく毀損されるなど、本件ゴルフ場経営の根幹に関わるような重大な問題な問題が生ずる可能性があるため」であると判断しました。

その上で、「利用者が暴力団構成員か否かは、本件ゴルフ場にとって、その利用を許可するための判断の基礎となる重要な事実であり、本件ゴルフ場が、被告人Bが暴力団構成員であることを知っていれば、被告人Aによる本件ゴルフ場の利用を許可しなかったであろうことが認められる」として、被告人Aらの行為は、欺罔行為(欺く行為)に該当すると判断し、被告人Aについて、詐欺罪の成立を認めました。

被告人Aの弁護人は、被告人Aは通常どおりの利用料金を支払っているので、本件ゴルフ場に財産的損害はないと主張しましたが、判決は、本件犯行は、「まさに暴力団幹部のとの交際の一環として、同人に便宜を図るために行われたもの」であり、「社交の場として利用されるゴルフ場にとって、暴力団の関与を排除することは重要な利益であり、利用料金を支払ったとしても本件ゴルフ場が被った損害は大きいと認められる」と厳しく非難しました。

 

詐欺罪の成立を否定した裁判例

これに対し、名古屋地裁判決②は、まず、同伴者である被告人Bが本件詐欺罪の故意を有していると認められるためには、⑴本件ゴルフ倶楽部の施設を利用しようとする者が暴力団構成員であるか否かが、同倶楽部従業員においてゴルフ場利用契約を成立させた上、同倶楽部の施設を利用させるか否かの判断の基礎となる重要な事項であることを認識していること、及び⑵会員である被告人Aが、同伴してゴルフプレーをしようとする者の中に暴力団構成員がいることを告げずに同倶楽部の施設利用を申し込む行為自体が、当然にその中に暴力団構成員はいない旨の事実を表する行為であることを認識していることが必要であるとしました。

その上で、判決は、⑴の点については、被告人Bの供述等から、「本件ゴルフ倶楽部の施設を利用しようとする者が暴力団構成員であるか否かが、同倶楽部従業員において、同倶楽部との間でゴルフ場利用契約を成立させた上、同倶楽部の施設を利用させるか否かの判断の基礎となる重要な事項であることを認識していたとまでは認められない」と判断しました。

さらに、⑵の点については、㋐ゴルフ場において同伴してゴルフプレーをしようとする者の中に暴力団構成員がいることを告げずにその施設利用を申し込む行為が、一般的に、その中に暴力団構成員はいない旨の事実を当然に表する行為であるとは認められないと判断し、さらに、㋑被告人Bは、被告人Aが本件ゴルフ倶楽部へ入会した際の手続及び審査には何ら関与しておらず、そのほかに被告人Bが被告人Aと本件ゴルフ倶楽部との契約関係の具体的内容を知っていたと認めるに足りる証拠はないことからすると、被告人Aにおいて、本件ゴルフ倶楽部の施設利用を申し込む行為自体が、当然に被告人Aが同伴してゴルフプレーをしようとする者の中に暴力団構成員はいない旨の事実を表する行為であることを、被告人Bが認識していたとは認められないとして、本件詐欺罪の成立を否定しました。

 

ゴルフ場の対応

結局、被告人が本件ゴルフ場の会員であるか否か、つまり本件ゴルフ場が「暴力団関係者お断り」であることを被告人が知っていたかどうかについての判断の点で、両被告人に対する詐欺罪の成否の結論が分かれたわけですが、会員ではない暴力団関係者について詐欺罪の成立を否定した名古屋地裁判決②の判断が、一般的な実務感覚からは相当ずれたものであることは明らかでしょう。

名古屋地裁判決①も指摘しているとおり、ゴルフ場に暴力団関係者が出入りしていれば、暴力団と無関係の一般のプレー客はそのゴルフ場を敬遠します。ゴルフ場のグレードも当然下がり、会員権相場が下がるなどの影響も考えられます。

このように、暴力団関係者の施設利用は、ゴルフ場に対し計り知れない不利益を与えることになるのです。

そして、暴力団関係者は、暴力団排除条例の施行後、暴力団関係者の施設利用は、ほとんどのゴルフ場の約款で禁止されていること、及び暴力団関係者であることがゴルフ場に分かれば、施設利用を拒否されるであろうことは十分承知していることもまた明らかであって、名古屋地裁判決②は、世間の常識から乖離しているものと言わざるを得ません。

 とは言え、名古屋地裁判決②のような判断を裁判所がしている以上、ゴルフ場としては、本判決を踏まえた対応が求められることになります。

つまり、名古屋地裁判決②が判旨した、詐欺罪の成立に必要な故意の要件との関係で、「暴力団関係者の施設利用は固くお断り」であるということを、ゴルフ場において、具体的に明示する必要があるということです。

 

プレーやコンペの予約において

まず、クラブハウス内の出入口や各掲示板、またホームページ等において、「当クラブでは、○○県暴力団排除条例及び○○県ゴルフ場防犯協議会ゴルフ場利用約款により、暴力団員及びその関係者、身体の一部に刺青のある方の入場やプレーを一切お断りします。 その旨が判明した場合は、すぐに退場していただきます。」ということを明示しておくべきでしょう。

ホームページからの予約申込画面においても、「予約者のみならずプレーする全員に暴力団関係者は含まれない」をクリックしないと先に進めないといったシステムにするなどの工夫も有効だと思われます。

このように毅然とした態度で対応することで、暴力団関係者の側がそのゴルフ場を敬遠し、被害を事前に食い止めることができます。

こういった対応は、特にリゾート地のゴルフ場など、ゲスト客が多く訪れ暴力団関係者に狙われやすいゴルフ場において、特に重要だと思われます。

ゴルフ場のフロントでの受付の際にも、受付票に「暴力団関係者の利用は固くお断り」であることを明示した上で、さらに受付票に「予約者のみならずプレーする全員に暴力団関係者は含まれない」という欄をもうけ、プレー客にチェックしてもらうなどの対応も必要です。

ゲストのみの申込みを認めているゴルフ場の場合には特に注意が必要です。このような場合には、予約の際に運転免許証などの身分証明書を提出してもらい、提出を拒否するような場合には予約を受け付けないなどの対応も必要です。

このような対応を取ると、申し込みを断るプレー客もいるかもしれませんが、それでも構わないという強い姿勢で臨むことが大切です。

なお、こうした対応を実際に取っているゴルフ場によりますと、開場以来暴力団絡みの被害には一切遭っていないということであり、有効な方法であることが分かります。

また、ゴルフ場が暴力団関係者のゴルフコンペのために施設を提供することは、暴力団の活動を助長するとともに、暴力団の資金獲得手段ともなり得るものであり、暴力団排除条例により禁止されています。

大きな貸切コンペの場合、他の一般のプレー客への迷惑を考える必要もありませんし、大きな売り上げにつながるからといって、受け付けてしまうゴルフ場も中にはあるようですが、暴力団の活動を封じるためにも、毅然とした態度で申込を拒絶することが重要です。

 

暴力団関係者からの予約を受け付けてしまったら

その風体から暴力団関係者と思われる人物が来場した場合には、すぐに所轄の警察署に受付名簿の氏名・生年月日・住所等を連絡して、暴力団関係者かどうかの照会を依頼します。暴力団関係の問題については通常生活安全課が担当し、警察署の受付に連絡して暴力団関係者の照会依頼である旨を伝えれば、生活安全課の担当者に回してもらえます。

その結果、暴力団関係者が含まれることが判明した場合には、すぐに所轄の警察署に暴力団排除のための警察官の立会いを依頼し、警察官立会いのもとで、ゴルフ場の利用約款により暴力団関係者は入場及びプレーをお断りしている旨を説明し、直ちにプレーを止め全員退場してもらう(例えばプレーの前半に判明した場合にはハーフプレーでやめてもらう)といった対応が必要です。

そして、一緒にプレーした人物については、暴力団関係者であることが判明しなかった者も含めて全員を、ゴルフ場の予約ブラックリストに載せるなどの対応も必要でしょう。

さらに、各都道府県のゴルフ場防犯協議会のような組織にも事例を報告するなど、近隣のゴルフ場が一体となって、暴力団排除の姿勢を取ることが大切だと思われます。

「ゴルフ場セミナー」2012年6月号掲載
熊谷綜合法律事務所 弁護士 熊谷 信太郎

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