熊谷信太郎の「ゴルフ場の池での事故」

今年2月、岐阜県のゴルフ場で、小学 2 年生の男児 2 人が池に転落し水死するという大変痛ましい事故が発生し、メディアでも大きく取り上げられました。詳細については現在調査中と思われますが、2 人は友人の男児と 3 人でゴルフ場に遊びに来ており、コース内の池に石を投げて遊んでいたところ、誤って転落した1人を助けようともう1人が池に入った結果、2人とも溺れたとみられています。

ゴルフ場には様々な危険がありますが、池はゴルフ場の中でも特に危険な場所の一つであり、ゴルファーや従業員が池に転落して亡くなるという事故も少なくありません。池に飛び込んだボールを捜そう、取ろうとして、或いは先に池に転落した同伴者を助けようとして、足を滑らせ池に転落した事例が多いものと思われます。池の底がゴムでコーティングされていることが多い上に、藻などが生えており、また、池の中がすり鉢状の斜面になっている場合には非常に滑りやすく、場合によっては藻が足に絡みつくなどして岸に上がることができず、あわててどんどん深みにはまって溺れてしまう、ということが指摘されています。

ゴルフ場での事故については、これまでにも取り上げましたが、今回は、池での事故について検討します。

ゴルフ場の池での事故

平成23年5月には、群馬県のゴルフ場で、ツーサムでセルフプレー中の男性が、2名とも池に転落して死亡するという事故が発生しています。この池には、他のゴルフ場での事故(後述する栃木県の事故)を教訓に、池への転落事故に備え、ロープ付きの浮輪をかけた支柱が2本あり、また、支柱のそばには約3メートルの竹竿も設置されていたということですが、事故当時、浮輪や竹竿は未使用のまま残されており、備えが役立たなかったようです。

平成19年9月には北海道のゴルフ場で男性ゴルファーが亡くなっています。この男性は、池に入った同伴者のボールを拾おうとし滑って池に転落したものとみられています。

平成18年8月には栃木県のゴルフ場で女性ゴルファーが亡くなっていますが、この女性は、ボールを拾おうとして池に転落した同伴者を助けようとしたものの、自らも滑って池に転落したと報道されています。

ゴルファー以外では、平成19年4月には噴水工事中のパート従業員が、平成14年8月には群馬県で除草作業中の従業員が、平成23年3月には、ロストボール回収中の作業員(ゴルフ場の従業員ではない)が亡くなる等の事故が発生しています。

ゴルフ場の法的責任

池での事故の場合、ゴルフ場の責任として一般に①安全配慮義務違反と②土地工作物責任が考えられます。

①安全配慮義務違反とは、民法第415条が定める債務不履行責任(契約責任)の一種です。

ゴルファーがゴルフ場と締結する利用契約の中には、「ゴルフ場は、ゴルファーに対し、安全にプレーさせる」という内容も含まれます。しかしゴルフ場側の配慮が足りず、ゴルファーに事故が起こったような場合には、ゴルフ場が「安全にプレーさせる」という契約内容に違反しており、ゴルフ場はゴルファーに対して損害を賠償しなければならない、というわけです。

②土地工作物責任とは、民法第717条第1項が定める不法行為責任の一種です。安全配慮義務違反の場合と異なり、ゴルフ場と契約関係にある相手方に限られず、岐阜県の事故における男児等第三者との関係でも問題となります。

同条項は「土地の工作物」の「設置又は保存に瑕疵」があって損害が生じた場合、占有者や所有者が賠償責任を負わなければならないと定めています。

「土地の工作物」とは、「土地に接着し、人工的作業をしたことで成立したもの」と説明されています。ゴルフ場内にある池も、もともと自然に存在したものをそのまま何ら手を加えずに利用しているのであれば別ですが、人工池であれば、ここにいう「土地の工作物」に含まれます。

「設置又は保存に瑕疵」というのは、「通常備えるべき安全性を欠いている」ことであると解されています。ゴルフ場内の池が、通常備えるべき安全性を欠いていたために、ゴルファーに損害が生じた場合、占有・所有をしているゴルフ場が損害賠償をしなければならないというわけです。

自己責任の原則

では、池の事故を防止するという観点から、ゴルフ場としてどの程度の対応が要求されるのでしょうか。

ゴルフ場がどこまで安全に配慮する義務を負うか、ゴルフ場の池が通常備えるべき安全性はどの程度か、ということを考える際に重要な基本的視点は、ゴルファーとの関係では、ゴルフはプレイヤーであるゴルファー自身が審判も兼ねる紳士のスポーツだということです。ラウンド中の行動については、基本的に自己の責任において全て決定すべきです。

ゴルフ場との比較のために紹介したいのが、小学校の遊具で発生した事故に関し土地工作物責任が問題となったいわゆる徳島遊動円棒[遊動円木]事件です(大正5年6月1日大審院判決)。

この事件で、大審院は、小学校の遊動円棒(前後に動く丸太に乗る遊具)が腐朽していたというケースで、「三人以上同時に乗るべからず」という立札をするくらいでは足りず、現実的な措置(ロープを張って立入禁止にする、遊動円棒を動かないよう固定してしまう等の対応を念頭に置いているものと思われます)をしなければならないと示しています。

この判例の結論だけ参考にすると、ゴルフ場の池の周りに「危険」という立札をするくらいでは足りず、柵を立て、ネットを張ってでも、ゴルファーが池に近づくのを防止すべきだという考えも出てきそうです。

冒頭の岐阜県のゴルフ場では、今回の事故を受け、ゴルファーを含めた全ての人に、改めて池への注意喚起を行うため、敷地内にある全ての池の周りにローピング措置を実施し、立ち入り禁止・注意喚起を促す警告看板を設置したということです。

しかし、これはゴルフ場の池と小学校の遊具の差異を考慮しない誤った考え方であり、ゴルフの精神にも反すると思われます。小学校の遊具は判断力に乏しい児童が利用するものであるのに対し、ゴルフは自己責任・自己決定が要求される紳士のスポーツであって、事情が異なります。

柵を立てたことで、本来池に入るべきミスショットしたボールが救われる、というのは競技のあり方として不適切と思われます。また、柵や網はゴルフ場に求められる美観を損ねるという問題もあります。

もちろん、池の周囲がすり鉢状で滑りやすく、近づくだけで非常に危険というような池であれば、ゴルフ場としても何らかの措置を講じなければならないでしょう。

しかし、そのような特段の事情のない限り、ゴルファーには自己責任・自己決定が要求されるという基本的視点に立てば、現在のゴルフ場における池の管理のあり方を大きく変える必要はないと思われます。

ゴルフ場の対応

ゴルフ場の池への転落死亡事故が発生すると、ゴルフ場の池は浅くても障害物として十分なのだから、浅く作れば死亡事故を防げるのではないか、という意見もあるようです。しかし池には雨水を吸収し溜める機能もあり、浅い池にするというのは現実的ではありません。

また、藻やアオコを除去すればよいのではないかという意見もあります。実際、定期的に除去しているゴルフ場もありますし、それを請け負う専門業者もあります。ただ、農薬を使わないという制約のもとで完全に除去するのはほぼ不可能でしょうし、手間も費用も大変な割に、効果は限定的と思われます。仮に除去できても、ゴムのコーティングで滑ってしまうことまでは防止できません。そもそも池に近づくのはゴルファーの自己責任ですから、ゴルフ場が安全確保のため池の藻やアオコを除去しなければならない義務まで負うと考えるべきではありません。

とはいえ、全てゴルファーの自己責任だから、池に落ちてもゴルフ場は一切関知しない、というのも極端すぎます。事故に備え、浮輪や竹竿を設置しておくというのは、コスト・果両面からも、現実的な選択肢でしょう。そして美観との兼ね合いもありますが、浮輪や竹竿は目立つように設置することが大切です。また、セルフプレーの組の場合は、他の注意点とあわせてカートに掲示して案内をするくらいの配慮があっても良いと思います。

第三者の立ち入りのケース

一方、ゴルファー以外の第三者がゴルフ場に立ち入った場合には、「池に近づくのは自己責任」とは言い切れないケースもあるかもしれませんが、ゴルフ場ではゴルファー以外の第三者の立ち入りを禁止しているのが通常であり、不法侵入者が池に転落したからといって、特段の事情のない限りこれまで述べたようなゴルフ場の安全性の判断基準が変わることはないでしょう。

つまり、土地工作物責任における「設置又は保存に瑕疵」というのは、前述のとおり「通常備えるべき安全性を欠いている」ことであって、ゴルフ場があらゆる可能性を想定してこれに対応すべき義務があるわけではないと考えられます。

但し、安全策を実施すべき黙示の義務が発生したとみる余地のある場合には、不作為による安全配慮義務違反が問題となる可能性があるので注意が必要です。

例えば、子供がゴルフ場に立ち入り池に転落して死傷したケースで、過去に子供の立ち入りが度々目撃され、ゴルフ場が子供の遊び場化しているにも関わらずゴルフ場がこれを容認していたとみられるような場合には、上記徳島遊動円棒事件が指摘するように、池の周りにロープを張って立入禁止にする等の現実的措置が必要であると判断される可能性もあるので、遊び場化しないよう注意が必要でしょう。また、近隣住民にゴルフ場を開放して催し物を実施するような場合も、池の危険性について注意喚起する等の措置が必要となるでしょう。

岐阜県のゴルフ場では、今回の事故を踏まえ、敷地外との境界に設けてあるフェンスには、地元行政との協議の上立ち入り禁止看板の増設等、再発防止のための安全策を実施していくということですが、こういった対策が必要な場合もあるでしょう。

従業員の事故の場合

ゴルフ場は、労働安全衛生法第3条第1項により、また、労働契約法第5条により、従業員の業務上の安全にも配慮すべき義務を負っています。これに違反し、事故が発生すると、民事・刑事上の責任を問われることがあります。

死亡事故や重大な後遺症が残ったような場合の民事上の損害賠償責任は相当高額になります。安全な労働環境を提供していなかったとなれば、労働安全衛生法第23条ないし第25条等の違反となり、6か月以下の懲役又は50万円以下の罰金となることもあります(労働安全衛生法第119条第1号)。場合によっては、刑法上業務上過失致死罪に問われ、5年以下の懲役もしくは禁錮または100万円以下の罰金となる可能性もあります。

ゴルファーや第三者とは異なり、従業員の場合には業務上の必要性から池に近づかなければならないこともあろうかと思います。物的な防護措置を講じることはもちろん必要ですが、従業員に対する安全教育を行い、池の周囲での作業手順を定めることも必要でしょう。状況が許せば、池の周りの作業は複数名で行うようにすることも重大な結果の発生を防止する上で有効と思われます。

「ゴルフ場セミナー」4月号掲載
熊谷綜合法律事務所 弁護士 熊谷 信太郎

熊谷信太郎の「預託金問題総整理」

バブル経済崩壊後、預託金償還問題が顕在化し、加えてリーマンショック以後の経済の低迷や会員の高齢化、価格競争の激化等により各ゴルフ場は依然として厳しい経営を強いられています。

預託金制のゴルフ場は、一般に一定の据置期間を設けて預けられた預託金を、退会後に返還するというシステムになっていますが、会員権相場の下落によって相場が預託金額面を下回ることになり、会員の多くがゴルフ場に預託金の返還を求めることになりました。平成の初めころ、1口何千万という高額の預託金を集めたゴルフ場の中には、後に到来した預託金償還期限を、償還期限の再延長という形で乗り切りを図ったゴルフ場も数多くありました。

しかしながら、理事会の決議による預託金の据置期間の延長決議については、最高裁が、「会則に定める据置期間を延長することは、会員の契約上の権利を変更することにほかならないから、会員の個別的な承諾を得ることが必要であり、個別的な承諾を得ていない会員に対しては据置期間の延長の効力を主張することはできない」旨判示し、法律上無効とされるのが一般的です(最高裁昭和61年9月11日第1小法廷判決)。またこの措置は問題の先送りに過ぎず、根本的な解決につながるものではありませんでした。さらに二度目の据置期間が経過し、延長後の償還期限が到来しているゴルフ場も多くあります。二度目の延長となると、多くの会員の同意を得ることはさらに難しくなってきます。

そこで今回は、預託金問題の解決法として議論されてきたものを整理してみたいと思います。

 

延長への同意取り付け

上記の最高裁判決を前提とすると、据置期間の延長について、各会員から個別の同意を取り付ける方法がまず考えられます。

同意を得るために実際上最も重要なのは、代替措置について会員の納得を得られるか、ということです。

代償措置としては年会費の引下げやクーポンの発行等が考えられますが、これはゴルフ場の売上を減らすことにつながりますから、そう簡単に導入することもできません。

比較的会員の側でも受け入れやすい例としては、「特別休眠会員制度」が挙げられます。これは、ゴルフはプレーしなくなったが、会員としては残っていたいというスリーピング会員を対象に、延長同意と引き換えに、年会費を無料にするというものです。預託金返還請求をする会員の多くはスリーピング会員です。また、スリーピング会員は年会費を滞納するケースも比較的多くなります。もともと年会費の支払いをあまり期待できない会員の年会費を免除することにより、預託金返還請求を未然に防ぐという意味で、ゴルフ場にとっても有用と思われます。

また、岩手県のゴルフ場では、「期限到来の時から据置期間を10年間延長・会員権分割・名変手数料は分割後2年以内に限り無料・償還期限の延長に同意した会員権については年1回、公開抽選会で行う抽選償還に参加できる」という内容で据置期間延長への同意を求め、全会員の8割弱の同意を得られたとしています(平成20年当時)。

ただ、同意しない会員に対しては据置期間の延長の効力を主張できず、同意した会員との関係でも問題の先送りでしかなく、抜本的解決とはならないことは言うまでもありません。

 

株主会員制

一方、会員のためのゴルフ場運営という観点から、株主会員制への移行が唱えられた時期もありました。

その方法としては、新たに設立された株式会社(新会社)が、ゴルフ場(旧会社)に対する預託金会員権の現物出資を募り、旧会社に対する預託金返還請求権を取得し、旧会社が預託金の返還に代えて新会社にゴルフ場施設を譲り渡す、という流れになります。
株主会員制のゴルフ場とは、会員がゴルフ場経営会社の株主であるゴルフ場で、ゴルフ場に支払われるのは預り金ではなく出資金ですから、会員に返還する必要のないものです。

しかし、もともと預託金制ゴルフ場だった倶楽部で、会員が株主として経営に乗り出すということには、能力や労力の点でも、また意見集約の点でも無理がありました。倶楽部の中で経営権を巡って内紛が発生するなどのデメリットもあるようですから、そのような事態を防ぐために、株主会員制を導入するとしても、それはあくまでも「倶楽部は究極的には会員のものである」という理念を表すための手段にとどめるのが望ましいと思われます。例えば、会員に与える株式は無議決権株式として、残余財産の分配については優先的に取り扱うとすれば、永久債類似の役割を果たします。

結局、会員のためのゴルフ場運営というのは、会員に経営に関与させるというよりは、ある程度経営の透明化を図り、経営者が会員の意思を汲み取って、適切に経営に反映させるという程度にとどめておくのが適切な場合も多いのではないかと思われます。

 

中間法人制ゴルフ倶楽部

平成14年4月には中間法人法に基づく中間法人制度がスタートし、中間法人(公益法人と営利法人の中間的な存在)となって預託金償還問題を解決しようとしたゴルフ倶楽部もありました。

しかしながら、この方法にも、中間法人制への移行に同意しない会員からの預託金返還請求を拒否できないという根本的な問題があり、倶楽部は中間法人制に移行したものの、事業会社の経営を維持することができず、民事再生手続きなどの法的整理を余儀なくされた例もありました。

その後平成20年12月のいわゆる一般法人法施行に伴い、中間法人制度は廃止され、中間法人は一般社団法人に衣替えすることになったのです。

 

一般社団法人制ゴルフ倶楽部

一般社団法人とは、いわゆる一般社団・財団法人法に基づいて一定の要件を満たしていれば設立できる法人で、事業目的に公益性がなくてもかまいません。

原則として、株式会社等と同様に、全ての事業が課税対象となりますが、設立許可を必要とした従来の社団法人とは違い、一定の手続き及び登記さえ経れば、主務官庁の許可を得るのではなく準則主義によって誰でも設立することができます。

そこで、中間法人スキームに代わる預託金償還問題対策として、「㋐一般社団法人制ゴルフ倶楽部を設立し、㋑従来のゴルフ倶楽部(任意団体)の会員は一般社団法人の社員となり、㋒一般社団法人は、ゴルフ場事業会社の株式の一部を保有する」という一般社団法人スキームの採用が考えられたのです。

一般社団法人制のゴルフ倶楽部としては、平成21年1月に田辺カントリー倶楽部を運営する任意団体の田辺カントリー倶楽部が一般社団法人田辺カントリー倶楽部を設立したのが最初です。その後、平成21年2月に長崎国際ゴルフ倶楽部、平成22年10月に函南ゴルフ倶楽部(静岡県)、平成25年4月にディアーパークゴルフクラブ(奈良県)等が一般社団法人制ゴルフ倶楽部としてスタートを切りました。

しかしながら、中間法人制の場合と同様、一般社団法人への移行に同意しない会員からの預託金返還請求まで止められるものではないという問題は依然として残ります。

 

永久債化

「永久債化」の方法もあります。これについては数年前に社団法人日本ゴルフ場事業協会の研究会においても取り上げられました。

永久債というのは、本来会社の資金調達手段の話なのですが、預託金制のゴルフ場の場合、倶楽部解散時まで預託金を返還しない(倶楽部が存続する限りいつまでも返さなくて良い)、ということを意味します。

しかし、永久債化も会員との個別の合意によって成り立つものですから、永久債化に成功したゴルフ場もごくわずかにとどまっています。

永久債化を図ったことがきっかけで、かえって会員の反発を招き、倒産につながってしまうような例もあるようですし、一般的に言えば、永久債は期待されたほど預託金対策の切り札とはなりにくいと思われます。

 

抽選弁済

上記の岩手県のゴルフ場でも採用されていた抽選弁済の制度は、ゴルフ場と会員のニーズを折衷し得る解決案として注目されます。

抽選弁済は、毎年の一定枠を定め、その枠内の金額で、当選した会員に預託金を償還する方式です。

抽選弁済は、希望者が多くても償還額は経営継続が可能な一定額に抑えることができるので、ゴルフ場は、会員のプレー権を保障したまま預託金の償還を継続することができ、一方、当選すれば預託金全額の返還を受けることができるというメリットがあるため、会員側としても比較的受け入れやすいものです。

抽選弁済を実施する際には、必要な範囲でゴルフ場の会則を変更し、細則に抽選弁済の内容を規定します。

細則には、当選しなかった会員が後にゴルフ場に対し預託金償還請求をする場合に備えて、「本規則に定める抽選弁済による償還申込をした場合、本規則に定める以外の方法により償還請求をしない」ことを必ず規定します。この点が抽選弁済制度を採用することの妙味ですが、冒頭の理事会決議による据置期間延長の議論と同様、細則等に規定しただけで訴権放棄の同意と言えるかどうかが問題となってきます。

そこで、預託金の償還は退会を前提とするものですから、申込者からは退会届(抽選弁済への申込書)を提出してもらい、この届に「抽選弁済に関する規則の内容を承認した上で、償還の申込みをする」旨を記載しておき、訴権放棄につき申込者との間で個別に合意しておくことが重要です。

もっとも、抽選弁済への申込者以外の会員との預託金問題は依然として残ります。

 

預託金制からの移行

結局、いずれの手法においても同意しない会員からの預託金返還請求まで止められるものではないという点が最大の問題です。

たとえごく一部の会員からの返還請求であっても、額面によってはその負担に耐えきれないゴルフ場もあり得ます。その場合結局のところ、民事再生手続による処理を選ばざるを得ないことになります。

民事再生手続では、㋐再生計画案の可決要件が緩く(議決権を有する出席債権者の過半数、かつ再生債権者の議決権総額の2分の1以上)、同意しない会員についても拘束力があると言う点が最大の利点です。他にも、㋑弁済期にある債務を返済すれば経済的に窮地に陥る状況があれば、支払不能にならなくても申立ができる、㋒原則として現在の経営者がそのまま経営を続けられる、㋓債務者の再生が困難にならないようにとの配慮から、強制執行等を中止・禁止する制度や、担保権の消滅請求制度等が用意されている等、ゴルフ場側に有利な制度があります。

他方、㋐再生計画案の認可決定確定後3年間は裁判所の監督に服すること、㋑役員に対する責任追及の制度があること、㋒再生計画案が可決されない場合、会社は破産することになること等、ゴルフ場にとって不利な制度もあります。

どのような手法が望ましいかは、それぞれのゴルフ場の実情に応じて異なりうるところだと思いますが、会員の属性や経営会社の財務等に関する分析を行い、専門家を交えて対応策を検討することが必要でしょう。

「ゴルフ場セミナー」2015年1月号掲載
熊谷綜合法律事務所 弁護士 熊谷 信太郎

熊谷信太郎の「打球事故」

ゴルフ場でプレー中、後続の組や隣のホールから打ち込まれた打球に危険を感じた経験のある方も多いと思います。

昨年4月には、プレーヤーの打球が同伴プレーヤーの左目に当たり失明させた事案で、加害プレーヤーの他、同伴キャディ及びゴルフ場運営会社の共同不法行為責任を認め、かつ過失相殺がされるという判決が岡山地裁で出されました。

ゴルフ場における打球事故は、被害者に重大な損害を発生させる危険があり、被害者やその遺族に対して、直接の加害者であるプレーヤーだけでなく、事故の発生原因によっては、同伴キャディやゴルフ場自体が法的責任を問われる場合もあります。

今回はゴルフ場における打球事故の民事責任について検討します。

 

岡山地裁平成25年4月5日判決

この事案は、岡山県のゴルフ場で、原告(相当年数のゴルフ歴がありスコアは90程度。以下X)と被告(約20年のゴルフ歴がありスコアは100程度。以下Y)を含む4名でのラウンド中、13番ホールにおいて、XとYの打ったティーショットが近い場所に落ちて最初にXが第二打を放ち、すぐ後にYが第二打を打ったところ、ミスショットして右前方30度の方向にボールが飛び、ボールがグリーンに乗ったかどうか確認しようと右斜め前方8~9m付近にいたXの左目を直撃し、失明させてしまったというものです。

裁判所は、Yはグリーン方向とボールにのみ気を取られ、右斜め前方にいたXや他のプレーヤーを確認することなく、グリーン方向にまっすぐに飛ぶものと過信して第二打を打った点に過失があると判断しました。

ただ、Xも、打撃行為をするYの前方に出ていた点に過失があるものと考えられ、3割の過失相殺がなされました。

また、同伴キャディ(本件ゴルフ場のキャディとして約20年間勤務していたベテラン)についても、本件事故が起こった13番ホールまでのXYの観察の結果、基本的ルールやマナーについては注意する必要はないと過信し、必要な注意喚起を怠った過失があるとしました。

また、被告キャディの雇用主である被告ゴルフ場には独自の不法行為を認定することはできないが、被告キャディの雇用者として使用者責任を負うと判断しました。

本件は控訴され、控訴審で和解が成立したということです。

 

キャディの責任

キャディは本来プレーヤーの援助者(ゴルフ規則第2章11「プレーヤーを助ける人」)であることからすると、競技においてはキャディの過失(注意義務違反)は即ちプレーヤー自身の過失となるはずで、この判決がキャディの過失によりプレーヤーではなくゴルフ場経営会社の責任を導いていることに違和感を抱く人がいるかもしれません。

しかし、欧米のようにキャディを雇う場合はプレーヤーが直接キャディと契約する形になるものと異なり、日本ではゴルフ場がキャディを雇用してプレーヤーに提供するのが通常であることから、キャディの過失はゴルフ場の使用者責任を導くことになります。

つまり、ゴルフ場の安全配慮義務違反が問題となる場面では、キャディは「競技者の援助者」にとどまらず、ゴルフ場経営会社の従業員として、競技に伴う危険を未然に防止し、競技者の安全を保持すべき注意義務があると考えられています(名古屋高裁昭和59年7月17日判決、大阪地裁平成12年10月26日判決等)。

上記岡山地裁も同様の考えに基づき、①他のプレーヤーがショットする前にはその前方に出てはならず、打球が飛ぶ範囲に同伴プレーヤーがいる場合にはショットしてはならない、②キャディはこれに反する行為をプレーヤーがしようとしている場合は注意して阻止しなければならないとしてキャディの過失を認定していますが、プレーヤーはスロープレー防止のために自分のボール地点に早く行きたがる傾向がある上、接客業であるキャディがゲストに対してあまり強く注意を繰り返すことはしにくいといった現実のプレー環境の中では、この認定はやや酷な判断だという印象もあります。

なお、キャディの注意義務は同組プレーヤー同士の事故に限らず、別組のプレーヤー同士の事故の場合でも同様に考えられています(後続プレーヤーの打球が先行プレーヤーに当たって負傷させた事故に関する東京地裁平成5年8月27日判決等)。

 

ゴルフ場の使用者責任

前述のように、従業員であるキャディに過失が認められる場合には、使用者であるゴルフ場経営会社も使用者責任を負うことになります(民法715条1項。上記岡山地裁平成25年判決、東京地裁平成5年判決等)。

なお、民法715条1項但し書きは会社の責任を免除する規定ですが、これにより会社の責任が免除されること(従業員の選任や監督に注意を充分払ったとされる場合等)は殆どなく、従業員に過失があればほぼ会社は責任を免れることができません。

ゴルフ場経営会社は、打球事故に備えて保険に入ることは勿論必要ですが、単なる競技者の援助者としてだけではなく、ゴルフ場を安全に利用させる義務を負担する会社の補助者として、日頃からキャディ教育を徹底することが大切です。

 

プレーヤーの不法行為責任

よくある打球事故としては、㋐ゴルフ場隣接ホールからの打球を受けるケース、㋑後続プレーヤーの打球が先行プレーヤーへ直撃するケース、㋒同伴プレーヤーの打球が同伴者やキャディに直撃するケースが考えられます。

こういったケースにおいて、加害プレーヤーの過失の有無の判断基準になるのが、「安全の確認」(ゴルフ規則第1章)です。

㋐のケースでは、「フォー!」という掛け声で危険を知らせていれば、原則として加害プレーヤーの過失は否定されることが多いと思われます。

裁判例でも、Xがゴルフ場の東10番ホールのバックティグラウンドに向かって歩いていたところ、隣接する東18番ホールでYが打った打球がXの目を直撃した事案で、Yはクラブや打撃方向の選択に特段の誤りなく、打球後に「フォー」と大声で警告している等の事情及び全てのスポーツ競技に共通して認められるところの「許された危険」の概念に照らして考察すると、Yの過失を認めることは相当でないと判断されています(東京地裁平成6年11月15日判決)。これは妥当な判断であると言えるでしょう。

㋑のケースでは、視認範囲内の先行プレーヤーの動向を確認せずショットを打った場合、加害プレーヤーの過失は認められやすくなります。

裁判例でも、18番ホールで第1打を打ち、その落下地点まで前進して第2打を打つ準備をしていたXが、後続組のYの第1打の打球を受け負傷した事案で、Yは、ティーショットを打つ際に通常の注意を払っていたならば前方でXがプレーをしているのを現認することができたはずなのにこれに気付かず、或いは気付いていながら無視し、その方向に向けてティーショットを打ったものであるから、Yに過失があることは明らかであると判断されました(東京地裁平成5年8月27日判決)。

 

同伴プレーヤーのケース

㋒のケースでは、加害プレーヤーが同伴プレーヤーやキャディの動静に注意せず漫然とショットを打ったような場合には注意義務違反が認められます。但し、被害者が加害プレーヤーの前に出てしまったような場合には加害プレーヤーの過失は否定ないし過失相殺されます

裁判例でも、Yがミドルホールの第2打(5番ウッド)を打つ際に、左前方20mのところに同組プレーヤーXが立っていたところ、当該打球が直撃してXに眼球破裂の傷害を負わせたと言う事案があります(東京高裁平成11年11月2日判決)。

この事案で、東京高裁は、経験を積んだプレーヤーであっても打球が予測外の方向に飛ぶことが起こりうるから、ミスショットの可能性も考慮に入れなければならないとして、5番ウッドでフルスイングしてミスショットが生じた場合に20mの距離では打球を見ていても回避することは不可能であるから、Yは第2打を打ってはならなかったのであり、過失ありと判断しました。但し、Yの左前方20mの至近距離に立っていた過失があるとして、Xにも4割の過失を認めました。

この裁判例は、Yが単に「打ちますよ」と声を掛けただけでは注意義務を尽くしたことにはならないとしています。プレーの進行上の都合から、前方や斜め前に人がいることはあり得ますが、その場合その種の声掛けをして打つことが一般的で、声を掛けられた側が退避する等の注意をすべきと考えるべきでしょう。そのような実情からすると、事例判断としてこれが妥当であったかにはやや疑問の残るところではあります。

 

ゴルフ場の工作物責任

キャディを付けないでプレーし、純粋に当該プレーヤー自身の不注意から発生した事故の場合、ゴルフ場は単にゴルフ場という場所を提供しているだけであり、打球の行方について責任を負うのはボールを打つプレーヤー自身であって、ゴルフ場は責任を負わないのが原則です。

もっとも、ゴルフ場の施設自体に問題があったといえるような場合には責任を負う可能性があります。

民法では、土地の工作物の設置・保存に瑕疵(欠陥)があり、これにより他人に損害を生じたときは、その工作物の占有者は、被害者に対してその損害を賠償する責任を負うとされています(民法717条1項)。

但し、占有者が損害の発生を防止するのに必要な注意をしたときは、所有者がその損害を賠償しなければならなりません(同条項但し書)。

ゴルフ場の所有会社と運営会社とが別になっている場合、第一次的には運営会社の責任が問われますが、第二次的には所有会社の責任が問われることになるわけです。

裁判例では、アプローチ練習場とコースの中間に安全網又は障壁を設けるべきであった(京都地裁平成昭和58年12月23日判決)、また、隣接ホールからの打球事故について、東10番ホールのバックティグラウンドの後方に東18番からの打球の飛来を防止するための防護ネットを設置すべき管理義務があった(東京地裁平成6年11月15日判決)として、工作物責任に基づく会社の責任を認めた例もあります。

これらの裁判例を前提にすると、ゴルフ場はコースに併設される練習場や駐車場、隣接道路、田畑、民家等との関係にも配慮して必要な措置を施す必要があることになるでしょう。しかし場外飛球防止は必要な措置だとしても、そもそもゴルフは危険の内在する自己責任に基づくスポーツです。ゴルフ場内の飛球に対して安全配慮義務を過度に強調することは、自然環境になじまない人工物を必要以上に配しコースとしての本来あるべき姿を歪めることになりはしないかとの危惧を感じます。打球が飛んでくる可能性があることが、直ちに土地工作物の瑕疵にあたるとは到底言えません。セントアンドリュースはじめ、世界の名門コースも伝統あるコースほどティーとグリーンが近かったり、グリーンが隣接していたり、更にはグリーンを共用しているところもあります。安全配慮義務を強調する視点からは、これらの伝統的コースも瑕疵があることになりかねず、それはゴルフやゴルフコースへの無理解に基づくものと言わざるを得ません。今一度自己責任の考え方に立ち返ってゴルフ場における安全配慮義務を考え直してみる必要があるのではないでしょうか。

「ゴルフ場セミナー」2014年10月号
熊谷綜合法律事務所 弁護士 熊谷 信太郎

熊谷信太郎の「ゴルフ場と太陽光発電」

東日本大震災による福島第一原子力発電所の事故を受け、我が国のエネルギー政策は大きな転換点を迎えました。注目されているのは太陽光や風力等の枯渇することのない再生可能エネルギーを用いた発電です。

平成24年7月には「電気事業者による再生可能エネルギー電気の調達に関する特別措置法」(以下「措置法」)が制定され、個人や事業者が再生可能エネルギーを利用して発電を行うことが容易になる制度が整備されました(固定価格買取制度)。

広大な敷地を有するゴルフ場用地は、巨大ソーラーパネルを多数設置する太陽光発電の場所として適していると考えられるため、ゴルフ場用地を利用して大規模太陽光発電を建設する企業も、外資系を含め続々と現れてきています(報道によると昨年9月時点で37か所)。

 

ゴルフ場の閉鎖と会員の権利

ゴルフ場事業は一般的には収益性がそう高い業種ではないと言われてはいますが、広大な敷地という資産を有しており、この資産を生かせる業種への転換を図りたいという事業者の発想は理解できるところです。

しかしパブリック制のゴルフ場であればともかく、会員制ゴルフ倶楽部の場合には多数の利害関係者を有する業種であることから、クラブを解散しての業種転換が無制限に認められるものでないのは言うまでもありません。

ゴルフ倶楽部の会則等には解散規定の置かれているものがほとんどであろうと思われます。この場合会則等は会員契約の内容となることから、その要件該当性を判断することになりますが、仮に「会社はいつでも本倶楽部を解散することができる」といった規定がある場合であっても、無制限に解散が認められるわけではありません。

裁判例においても、会則に「クラブ運営上やむを得ぬ事情のある場合」に解散できるという定めのある預託金制ゴルフ倶楽部で、事業者が経営悪化のためゴルフ場を閉鎖したため、会員が優先的施設利用権の侵害である等として事業者に対して損害賠償請求をした事案において、東京高裁平成12年8月30日判決は、

①「クラブ運営上やむを得ぬ事情のある場合」とは、会員にとって不利益を伴うゴルフクラブの解散を経営会社の機関(理事会)の決議のみによってすることを是認するに足りる客観的かつ合理的な事情の存する場合をいう。

②その判断にあたっては、ゴルフ場経営における会社運営上の事情のみならず、会員が受ける不利益の程度及びその不利益をできるだけ少なくする観点からのゴルフ場経営会側の配慮の程度などの事情をも総合して判断する必要がある。

とし、このまま事業を継続すればゴルフ場が破綻し会員は施設利用権のみならず預託金償還請求権も失ってしまうものとして、解散の有効性を認め、会員からの損害賠償請求を否定しました。

 

解散規定のない場合

一方、会則等に解散規定がなくても事業の継続が客観的にみて不可能で事業者に責のないやむを得ない事情に基づくような場合にまで一切解散は認められないとすることは事業者に酷を強いることになります。

例えば、同じく集団的役務提供型の契約であるスポーツクラブの会員であった者が、閉鎖により施設利用権を奪われる等の損害を受けたとして、事業者らに対し会員契約の債務不履行又は不法行為に基づく損害賠償を求めた事案があります。

この事案で東京地方裁判所平成10年1月22日判決は、会員契約の解除が、経営会社の経営努力にもかかわらず、経営成績の悪化、会員数の減少…等により、経営の継続が困難となったために行われた等の事実関係においては、右解除はやむを得ない事情によるものであり会員契約上の債務不履行に当たらないと判断しました。

これらの裁判例を前提に考えると、今回の震災により壊滅的なダメージを受けコースの修復に膨大な費用を要する場合や、放射能等の影響により営業の継続が不可能になったような場合には、事業の継続が客観的にみて不可能であって事業者に責のないやむを得ない事情に基づくものとして、会員契約の会社側からの解除は有効であり、会員契約上の債務不履行にはあたらないと考えられます。

 

預託金の返還

もっとも、ゴルフ倶楽部を解散して事業者が会員との会員契約を解除する場合、事業者は会員に対し利用できない分に応じて年会費を返還するとともに、預託金制であれば預託金も返還する必要があります。

入会金の返還については入会金の性質と絡み争いがありますが、上記平成12年東京高裁判決は入会金不返還条項に基づいて返還しないことを有効と判断しています。

預託金の全額返還が困難であれば破産手続や民事再生手続等により預託金返還債務の減免を受ける必要が生じます。

第三者がゴルフ場用地を事業者から買い取り太陽光発電事業を行い会員との会員契約を引き継がない場合には、資産の移転が濫用的会社分割にあたり、用地の取得が詐害行為として取消される可能性もありますので注意が必要です。なお、資産の移転を会社分割により行う場合には、債権者保護のため、官報公告及び知れている債権者に対する個別の催告をする必要があります(官報公告の他時事に関する日刊新聞紙又は電子公告がなされた場合には個別の催告は不要です)。

以上に対し、第三者がゴルフ場用地を競売により取得したような場合には、会員契約の解除の問題はクリアすることができます。

 

施設利用権の侵害となる場合

では解散が認められるような事態には至っていないゴルフ場事業者が、例えば36Hから18Hに縮小したり、複数所有する一部のコースを閉鎖してメガソーラー基地を建設し、売電収入を得ようとするとき、どのような場合に会員の施設利用権の侵害になると考えるべきでしょうか。

施設利用権の意味については一般に、一般の利用者に比べて有利な条件で継続的にゴルフプレーを行うために当該ゴルフ場の施設を利用する権利であると考えられています。

施設利用権の侵害については、会員権分割や開場後の募集による会員数の増加が事業者の債務不履行を構成するかという形で裁判上問題となっています。

例えば、東京地裁平成8年2月19日判決は、東京近郊のゴルフ場の事案で、会員数が1000名に限定されており、クラブが高級なものと設定されている場合には、会員数が1000名ないしこれをそれ程大幅に上回らない範囲の数に止めることは、事業者の債務とされる場合があるとして、平成7年当時会員数が4400名に上っていたことについて事業者の債務不履行を認めました。

一方、東京地裁平成10年5月29日判決は、高級感を演出しゆとりと格調をセールスポイントにして会員権を販売した千葉県のHカントリークラブの事案において、正会員募集限度数を1180名から1800名に増加させることが直ちに本件会員権募集当時構想した本件ゴルフクラブの性質の基本的部分を破壊するものということはできないから、会員権の分割は債務不履行にあたらないと判断しています。

コースの縮小や一部コースの閉鎖の場合も、事業者が有する倶楽部経営やコース運営管理上の裁量権と会員の施設利用権の保護のバランスの観点から、パンフレット等に記載された当初の募集計画、目標とするクラブのグレード、会員が利用し得る関連会社のコースの有無、会則規定等の個別具体的事情を総合して事業者の債務の内容を判断し、会員の施設利用権の基本的部分の侵害と言える場合には、事業者の債務不履行を構成し得ると考えられます。

例えば、現在のゴルフ環境と異なる古い時期の裁判例ではありますが、東京高裁昭和49年12月20日判決は、18Hのゴルフ場であれば1500名、36Hのゴルフ場であれば2500~2600名を適正会員数の1つの基準としています。コース縮小や一部ホールの閉鎖の場合もこの基準を参考にしつつ、コースのグレード等を加味した上で、実質的に会員の施設利用権の基本的部分の侵害と言えるかどうかを判断することになるでしょう。

実質的に会員の施設利用権の基本的部分の侵害と判断される場合には、会員は①事業者の債務不履行を理由とした会員契約の解除だけでなく、②体力、健康増進の機会を奪われ、倶楽部ライフを通じた人間関係を侵害された等の金銭によって評価できない重大な損害が発生したとして、事業者に対する損害賠償請求をすることが考えられます。

③さらに、ゴルファーとしては、施設利用権侵害を理由とし、ゴルフ場を他に転用することの差止請求も行いたいところです。しかしながら、差止請求が認められるのは所有権が侵害される場合や、生命や健康が侵害される公害や環境汚染の場合等であって、特定の事業者に対する請求権である施設利用権によっては差止請求までは認められないのが一般です。裁判例においても一般に債権の侵害を理由とした差止請求は認められておらず(東京地裁平成12年7月18日判決等)、施設利用権侵害を理由とした差止請求は通常認められにくいと思われます。

 

従業員との関係等

ゴルフ場閉鎖や規模縮小を理由に従業員を解雇するには原則として、過去の労働判例で確立された4要件(㋐人員整理の必要性㋑解雇回避努力義務の履行㋒被解雇者選定の合理性㋓解雇手続の妥当性)を充たさなければならず慎重な対応が必要です。

なお破産手続では未払賃金のうち3か月分は財団債権として一般債権者よりも優先的に支払を受けることができます(破産法149条1項)。

会社の全財産でも未払賃金に足りない場合には、国(労働省健康福祉機構)が労働者個人からの請求によって、未払賃金の一部を事業主に代って支払う制度もあります。請求期間は裁判所の破産等の決定又は労働基準監督署長の倒産の認定があった日の翌日から2年以内、金額は原則として未払賃金総額の8割です。

ゴルフコースの地主との賃貸借契約の内容の確認も必要です。用途をゴルフ場の使用などに限定している場合には、他の用地への転用は解除事由となる可能性があります。

もっとも、賃貸借契約のような継続的契約においては、信頼関係が破壊されたと言えない等の事情のある場合には解除権の行使は制限されるという判例法理が確立されていますが、事前に地主に事情を説明し契約を巻き直すことが必要です。承諾料(相場は更地価格の5~10%)の支払を求められることもあるでしょう。

また、ゴルフ場としての営業のために取得している許認可関係についても、所轄の地方公共団体等に廃止(廃業)の届出が必要になります。取扱いは各地方公共団体によって異なるようです。

「ゴルフ場セミナー」2014年5月号掲載
熊谷綜合法律事務所 弁護士 熊谷 信太郎

 

熊谷信太郎の「入会承認」

昨年8月、長年男性のみが会員であったマスターズ開催のオーガスタ・ナショナルGCが女性会員を初めて2名受け入れたことでニュースとなりました。

今年7月には男子ゴルフメジャー大会・全英オープン選手権が女人禁制の名門倶楽部・ミュアフィールドで開催されましたが、英国のマリア・ミラー文化・メディア・スポーツ相は「いまだ存在する性差別に背を向けてはいけない」という声明を出して大会への招待を辞退し、ヒュー・ロバートソン・スポーツ担当閣外相やスコットランドのアレックス・サモンド行政府首相もこれに同調する等議論の的となりました。

本来、同好の士の集まりであるゴルフ倶楽部は結社の自由を有し、誰を会員として認めるかについての裁量を有しており、入会申込みの際には倶楽部理事会の承認を要するとしているゴルフ場が一般的です。

歴史あるゴルフ倶楽部の中には、会員資格を男性に限定しているところもあるのは周知のとおりです。外国人であることや一定の職業(風俗営業従事者等)に就いていることを入会拒否事由としているゴルフ場もあるようです。

では、ゴルフ倶楽部の入会承認における裁量に限界はあるのでしょうか。

本年8月、この点に関して実務的に参考になる判決がさいたま地裁で出ました。

本件は、埼玉県の株主会員制のゴルフ場(本件倶楽部)の会員が死亡し、その会員の子であるA氏が株式を相続したとして本件倶楽部への入会の申込みをしたところ、ゴルフ場経営会社がこれを承認しなかったという事案です。

A氏は、入会申込みの不承認は裁量権を濫用したものであるとして、ゴルフ場経営会社に対し、①本倶楽部における名義書換と倶楽部理事会の決議無効確認を求め、②仮に本件倶楽部への入会が認められない場合には、不法行為に当たるとして慰謝料の支払いを求めました。

さいたま地裁は、平成25年8月28日、A氏の名義書換請求、理事会決議の無効確認請求、不法行為に基づく慰謝料請求いずれも棄却し、ゴルフ場側全面勝訴の判決を下しました。

 

事案の概要

A氏の父親は、昭和46年にゴルフ場経営会社の株式と本件倶楽部の会員としての地位を取得しましたが、平成22年4月に死亡し、A氏が本件株式を取得する旨の遺産分割協議が成立しました。

そこでA氏は、平成23年3月に本件倶楽部への正会員としての入会を申し込みましたが、倶楽部理事会はこれを承認しませんでした。

本件倶楽部の規則等においては、入会(相続により正会員の権利を承継した者を含む)の際には、選考委員会における審査を経た上、理事会において、理事の過半数が出席し、出席した理事全員の賛成による入会の承認が必要とされています。

なお、本件倶楽部では、理事会で入会を認められた申込者についてのみ取締役会に株式譲渡の承認手続を付託するという手続になっているため、株式の譲渡承認については正式な結論が出ていないようですが、A氏が株式の譲渡承認のみを求めればこれを認める方針だったようです。

裁判においてA氏は、会員としての資格要件を満たした入会の申込みは原則として承認されるべきであるという立論の下、①会社は入会を拒否する理由を合理的に説明しないままにA氏の入会申込みを承認しなかったものであり、裁量権を濫用したものと言うべきであるし、この点に関する倶楽部理事会の決議は憲法14条の精神に照らしても公序良俗に反し無効なものであるとして、本倶楽部における名義書換と理事会決議の無効確認を求め、②仮にA氏に対する本件倶楽部の名義書換が認められなかった場合には、会社が名義書換に応じなかったこと、及び入会申込みに当たりこれが認められなかったとしても一切異議を述べない旨の念書を書かせるなどした行為は、A氏の期待権を侵害する不法行為に当たるから、慰謝料として100万円の支払を求めました。

これに対しゴルフ場経営会社は、①本件倶楽部の重要な設立目的の一つは、会員の親睦を図ることにあり、②このような趣旨にそぐわないものとして入会申込みを拒否することは、私的自治の尊重されるべきゴルフ倶楽部としての適正な裁量の範囲内のことであるとして、③倶楽部理事会がA氏の入会申込みを承認しなかったとしても、これが裁量権の濫用となり、或いはA氏に対する不法行為に当たるということはできないと反論しました。

 

さいたま地裁判決

さいたま地裁は以下のとおり判断し、A氏の請求をいずれも棄却し、ゴルフ場側全面勝訴の判決を下しました。

①本件倶楽部の規則等では、正会員が相続した場合、その相続人が本件倶楽部の会員としての地位を取得するためには理事会の承認を得ることを必要としており、相続により株式を取得したことから直ちに本件倶楽部の会員の地位をも取得したということはできない。

②本件ゴルフ倶楽部はゴルフの普及発達を促進し、広く会員及び家族の保健と親睦を図り、ゴルフを通じて会員の体位の向上と道義の涵養に努め、地元の振興に寄与することを目的とされているのであって、倶楽部への入会希望者の審査は、原則として私的自治に基づく倶楽部理事会の自主的な判断に任されるべきものである。

③以上より、㋐入会申込みがあったときには原則としてこれを承認すべきものということはできない。㋑入会不承認が不当な目的に出たものである等裁量権を逸脱したものと認めるに足りる証拠はない。㋒入会不承認の理由を説明すべき法的な義務を負うものと認めるべき根拠もない。㋓A氏が本件倶楽部への入会申込みをするに当たり、入会が承認されない場合でも異議を述べない旨の念書をゴルフ場経営会社がA氏に差し入れさせていたとしても、そのことのみでA氏に対する不法行為に当たるものと認めることもできない。

 

結社の自由と法の下の平等

上記さいたま地裁判決も指摘している通り、そもそもゴルフ倶楽部は、同好の士の集まりであり、娯楽施設としてのゴルフ場の利用を通じて、会員の余暇活動の充実や会員相互の親睦を目的とする私的団体です。

そのため、ゴルフ倶楽部はその裁量により会員構成を自由に決定でき、ゴルフ場経営会社は、契約自由の原則から、倶楽部にとってふさわしくないと考えられる者との契約の締結を拒否できると考えられます。

本件は株主会員制ゴルフ倶楽部の株券を相続したという事案ですが、市場で会員権を購入した場合でももちろん同様です。

また、預託金会員制、プレー会員制等倶楽部形態の如何に関わらず、この考え方が基本的に妥当すると言ってよいでしょう。

このように、会員権の譲受人は、ゴルフ倶楽部の理事会等による入会承認を受けなければ、会員たる地位を取得することができないとする会則は法的に有効であり、倶楽部側に入会者決定の裁量があるということになります。

一方、憲法14条1項は「法の下の平等」を定め、人種や性別に基づく不合理な差別を禁じています。

そして、国家権力を規制する憲法規定の私人間(私企業や個人間の契約など)への適用について、判例・通説は、私的自治や契約自由の原則、私的団体の結社の自由等との調和の観点から、私人間に直接適用されないが、公序良俗違反(民法90条)や不法行為による損害賠償(民法709条)などの解釈・適用において、憲法規定の趣旨を間接的に考慮すべきであるとしています。

この点、外国人のゴルフ倶楽部への入会制限が争われた事案において、東京地裁平成13年5月31日判決は、「私人である社団ないし団体は、結社の自由が保障されている」とし、新たな構成員の加入を拒否する行為が…民法709条の不法行為に当たるとすることが許されるのは、結社の自由を制限してまでも相手方の平等の権利を保護しなければならないほどに、重大な侵害がされ、社会的に許容し得る限界を超えるといえるような極めて例外的な場合に限られるとして、ゴルフ倶楽部への入会に国籍による制限を加えるのは、社会的に許容される範囲であると判断してA氏の請求を棄却し、控訴審・最高裁もこの結論を維持しました。

会員を男性に限定するというゴルフ倶楽部の取扱いも、ロッカーや浴室、トイレの数等施設利用上の制約のため、社会的に許容される範囲であるとして、許容されるものと考えられます。同様に、女性限定のレディス倶楽部も許容されることになります。

 

実務的なゴルフ場の対応

このように、倶楽部会則における国籍条項も有効と判断されているとはいえ、入会資格を制限する条項は社会的に許容される範囲の制限であるかどうかという議論を呼びがちになるので、会則に明示するのは避けたほうが無難です。入会には倶楽部理事会の承認を必要とし、裁量的に各申込者の入会の許否を決する中で不適当な人物を排除するという方法が実際的です。

また、入会不承認の理由についても、明示すべきではありません。

この点、①倶楽部会則等に入会資格の要件が規定されていれば、その資格を充足している者が入会承認申請すれば原則として入会承認されてしかるべきであり、不承認とするならばその理由を明示すべきである、②入会資格要件が明確なものとしてない場合にあっては、他の会員につき承認し、当該会員につき不承認とする具体的理由を説明、明示すべきであるとの見解の論者もおり、その旨を主張する書籍もあります。本件判決のA氏の主張はまさにそのような考え方に立ってなされたものと言えましょう。

しかし、これは本件判決でも示されたように、倶楽部の入会者決定における裁量に関する誤った理解と言わざるを得ず、実務的にも到底受け入れられる見解ではないでしょう。

もともとゴルフ倶楽部への入退会に関しては、例えば労働者から要求があればその開示が要求されている解雇理由(労働基準法22条2項)などと異なり、法律による規制は及んでいません。

入会不承認の理由を伝えること自体が本人を傷つけ、無用な紛争を惹起する恐れがあり、入会不承認の理由を開示する扱いは通常なされていないと思われます。

そこで実務的な取り扱いとしては、入会不承認の理由を明示すべきではなく、倶楽部会則等に「入会不承認の理由を明示しない」ことを明記するとともに、入会申込の際に、入会不承認の理由を開示しないことについて入会希望者から個別に書面での同意を取っておくことが必要であると考えられます。

「ゴルフ場セミナー」2013年12月号掲載
熊谷綜合法律事務所 弁護士 熊谷 信太郎

熊谷信太郎の「会員に対する懲戒処分」

欧米のゴルフ場と異なり、日本等アジアのゴルフ場においては、女性のハウスキャディが多数を占めています。かつて著名な評論家から緑の待合と揶揄されたことがあるように、プレーヤーの中には、女性のキャディをはべらせて楽しみに来ているというような古い意識の人もいるようです。男性のプレーヤーによるキャディに対する猥褻行為やストーカー行為等の相談を受けることも珍しくありません。

また、メンバー同士の喧嘩やメンバーによるゴルフ場従業員に対する暴言や暴行、さらには社会生活上の不行跡の発覚等、メンバーとしてふさわしくない行為についての相談も稀ではありません。

このような場合、会員に対する懲戒処分はどこまで可能なのでしょうか。今回は最も重い懲戒処分である除名を念頭において検討したいと思います。

 

懲戒の種類と性質

除名は懲戒処分の1つであり、懲戒処分とは、団体がその秩序維持を図るため、団体の構成員に対して行う処分です。

民間の企業においても、企業の秩序と規律を維持する目的で、懲戒処分として、使用者が従業員の企業秩序違反行為に対して、戒告、譴責、減給、出勤停止、降格、懲戒解雇などの制裁罰を課すことが認められています。

ゴルフ場の場合も同様に、クラブという団体を想定し、クラブの秩序維持のために、会員に対して懲戒処分を行うことが認められます。

ゴルフ場においては、①戒告、②一定期間の会員資格の停止、③除名が定められていることが一般です。

会費の滞納(前月号参照)、③クラブの会則、規則違反を規定しているゴルフ場が多いと思います。

会員制には、社団法人制、株主会員制、預託金会員制、プレー会員制、及びこれらの混合制等がありますが、除名処分の法的意味は、それぞれのクラブの性質によって異なります。

いわゆる関東7倶楽部のような社団法人制ゴルフクラブの場合には、除名処分はクラブと会員との間の社団入会契約の解約(将来に向けての解除)を意味します。

株主会員制の場合には、株式会社と任意団体のクラブが併存しているケースが多いので、クラブからの除名処分が直ちに株主たる地位も失わせるかどうかは、会員契約の内容によることになりますが、原則的にはクラブからの除名イコール株主たる地位の喪失にはつながらないと思われます。

預託金会員制やプレー会員制のゴルフクラブの多くは、会員はクラブに入会する形式を取りながら、法的にはゴルフ場経営会社と会員契約を締結するものと考えられますので、除名処分とは、会員の債務不履行による会員契約の解約を意味します。

 

除名の実質的要件

判例学説上、除名処分は、クラブ秩序を乱しクラブの社会的信用や名誉を侵害するようなメンバーとしてふさわしくない行為がある場合、或いはゴルフ会員契約の契約者双方の信頼関係を破壊するような重大な契約違反がある場合に認められると考えられています。

例えば、利用施設を正当な理由もなく毀損する行為、施設利用に際し施設従業員や関係者に暴行したり繰り返し暴言を吐くといったような行為、休日に侵入してゴルフをする等定められている施設利用方法を著しく逸脱した施設利用行為、エチケットやマナーに著しく違反する行為等がこれにあたると考えられます。

裁判例においても、キャディに対して行った強制わいせつとその後の暴言等の対応等を理由として、問題となった会員に対する除名(債務不履行解除)を有効と判断した事案があります(東京地裁平成19年3月14日判決)。

同判決は、「契約の解除は、原告から、ゴルフ場施設利用権をその意思に反して奪い・・・社会的不利益を与えるものであるから、・・・契約関係の維持を困難ならしめる程度に信頼関係が破壊されることを必要とするというべきである」とした上で、①本件行為は非常に悪質なものであり、②原告は、本件行為後も被告クラブの者らによるでっちあげ、陥れである等と主張しており、③本件行為やその後の原告の対応、捜査活動等が従業員や会員に強い不安や動揺を与え円滑な運営上の障害となった等の諸事情を考慮すると、本件行為が、会則の懲戒事由に該当するだけでなく、除名処分の時点において、本件契約の維持を困難ならしめる程度に信頼関係が破壊されたものと言うべきであるとして、本件解除は有効であると判断しました。

なお、本件では、クラブ理事会により本非違行為を理由として来場禁止処分の後に除名処分がなされており、会員側は一事不再理(同一事件については再度の処分を行うことができないという原則)に反すると主張しましたが、同判決はこの点については明言せず、結論として適正手続違反はないと判断しました。

一事不再理は本来刑事罰に関するものであるため、この原則がクラブ内の懲戒処分にも該当するかどうかについては争いのあるところですが、本件は非違行為の後にさらにでっちあげの主張等(上記②)もなされていることから、同原則の適用を前提としても、一事不再理には反しないと事案だと思われます。

 

経営方針に対する反対運動

また、ゴルフ場経営会社の経営方針に反対する会員が、他の会員を組織、扇動して不相当な方法手段で反対運動を行うというような場合にも、団体としての秩序維持や信頼関係の破壊の観点から、除名が認められやすいと考えられます。

例えば、東京高裁昭和63年8月22日判決は、会員の反対運動が、その程度及び態様において、親睦団体における会員として社会常識上許容し得る限度を超えたものであったとして、ゴルフ場経営会社側の解除を有効と判断しました。

本事案において、問題となった会員は、増設コースについての追加入金の納入要請が違法不当であるとして、他の会員に働きかけて、組織的・集団的に宣伝した他、会社のゴルフ場の維持管理が不適切であり、会社内部で不正事件が続発している等と一般会員に宣伝したことが認定されました。

また、ゴルフ場経営会社から当該会員に対して警告がなされた上で、解除通告を行った事案でした。

このような場合には、ゴルフクラブの名誉と信用を傷つける等、会員とゴルフ場経営会社との間の会員契約を律する基本的信頼関係が破壊されたとして、東京高裁は契約解除を有効と判断しました。

 

クラブ外での不行跡の発覚

では、ゴルフ場外において犯罪行為をなす等、反社会的で社会から非難を受けるような非違行為があった場合はどうでしょうか。

この点、株主会員制の名門コースにおいて、脱税事件で実刑判決を受けた会員を、クラブ除名事由(「本クラブの名誉を棄損する等会員として好ましからざる行為があったとき」)にあたるとしてなした除名処分の効力が争われた事案があります。

本事案において、第一審は、直接クラブに関係ない行為ではあるが、クラブの名誉・威信を棄損した会員として好ましからざる行為であるとして、除名を有効と判断しました(横浜地裁昭和62年1月30日判決)。

一方、控訴審は、本件非違行為はゴルフ場外のものであり、ゴルフ場施設の他の会員の快適な利用を著しく困難ならしめるほどのものとは言い難く、それによってクラブの社会的評価が低下したとは認められず、会員契約上の信頼関係を破壊するものとは認め難いとして、除名を無効とし(東京高裁平成2年10月17日判決)、判断が分かれました。

最高裁は、原審の判断を維持し、除名を無効と判断しました(最高裁平成7年1月24日判決)。

なお、原審は、暴力事犯や窃盗事犯を反復累行する者やいわゆる暴力団組員のような者については、施設内においても粗暴なふるまいに及んだり他の会員の快適な利用を妨げる行為に出ることが充分に予測されるとして、契約上の信頼関係の維持が困難な例として挙げています。

一方、ゴルフ場の事案ではありませんが、乗馬倶楽部の会員が技術指導官に私的感情から暴行したという事案で、この会員の除名処分を社会通念上相当でないとして無効と判断した裁判例もあります(横浜地裁昭和63年2月24日判決)。

この事案では、私的な感情に基づく口論・けんかの末の暴力であり、被告倶楽部における乗馬スポーツの普及発展等の目的や被告倶楽部の事業との関連性も希薄であるから、被告の体面を毀損し、会員の義務を尽くさなかったとは言えないと判断されました。

 

懲戒処分と手続的保証

懲戒処分を行うためには、会則等で懲戒について定め、会則等で定められた懲戒手続きを経ることが必須です。

そして、争いはあるものの、クラブ内の懲戒処分においても、労働関係の場合と同様に、同一の非違行為に対する一事不再理、二重処罰の禁止の原則が適用されるとする見解が一般的です(反対説も有力ですが)。

但し、非違行為に対する懲戒処分後さらに暴言を吐いたりクラブの名誉を毀損する行為を繰り返すため再度処分するような場合には、新たな事情が付加されたことになるので、同一の非違行為に対して複数回の処分を課すことにはならず一事不再理に反しないと考えらます。

また、懲戒処分も不利益な処分であるため、遡及的処分はできないとされており、懲戒に関する規定が会則に定められる(追加される)以前の行為については、その処分対象とすることはできません。

 

除名の手続

除名処分をする場合、ゴルフ場経営会社は、問題となる会員の行為を具体的に把握する必要があります。

会員からの苦情申し出を受け付けた場合には、日時及び苦情の内容を詳細に記録し、問題となる言動について、写真や録音、動画などがあれば、これらを証拠として保管する必要があるでしょう。

一般に除名処分は、ゴルフクラブ理事会の決議により行う旨規定されているのが通常ですから、除名をなす旨の議題を理事会に上程する上での参考資料として、これらの記録を使用することになります。

そして、弁明の機会を設ける等の手続的保障が必要です。弁明手続及びその準備を行っておくことは、事実関係を精査するきっかけになり、処分対象者の弁解内容を確認するためにも必要です。

さらに、継続される非違行為に対しては警告を発することも必要です。

なお、通常は、理事会の除名決議を経て会員契約を解除するのが通常だと思われますが、ゴルフ経営会社が、除名決議を経ることなく、契約解除の一般法理に基づいて解除することが可能である場合もあると考えられます。

この点、前記東京高裁昭和63年8月22日判決は、契約解除の一般法理を適用して入会契約を解除することは、慎重を期すべきであるのは言うまでもないとして、理事会による除名決議を経るのが原則であるとしつつ、本件においては、①親睦団体における会員として社会常識上許容し得る限度を越えた行為であったこと、②警告がなされた上での解除通告であること、③理事会も除名相当の意向を有していたこと等の事実に照らすと、契約解除は有効であると判断しました。

「ゴルフ場セミナー」2013年10月号掲載
熊谷綜合法律事務所 弁護士 熊谷 信太郎

熊谷信太郎の「ゴルフ場と年会費」

長野県のゴルフ場が、平成25年4月末をもって、会員約1750名のうち、3年以上にわたり年会費の支払が滞った会員119名に対して、一斉に除名処分を行いました。

このゴルフ場は、平成14年7月に東京地裁に対し民事再生手続開始の申立てをし、再生計画に基づいて会員に対し預託金の一部を弁済し、スポンサー会社にその事業を譲渡しました。

一方、スポンサーとなった会社は、旧会員のプレー権を保護し引継ぎましたが、今回、会員としての義務を果たさない者に対し断固たる措置を取ったものです。

年会費の滞納には多くのゴルフ場が悩んでいると思われます。

しかしながら、預託金の据置期間が満了しているゴルフ場の場合には、除名により会員契約が終了して会員の預託金返還請求権が具体化し、預託金を返還しなければならないというジレンマに陥る可能性があるため、年会費滞納者の除名には慎重な考慮が必要となります。

上記の長野県のゴルフ場の場合は、法的整理の際に新クラブへ移行した会員はすべて預託金なしのプレー会員でした。そのため、年会費未払いを理由とする除名処分を、複数の会員に対し一斉に行うということが可能だったわけです。

 

年会費未納者に対する対応

年会費の支払義務は、ゴルフ場と会員との間のゴルフ会員契約に基づいた、会員の基本的な義務であり、会員の優先的施設利用権(いわゆるプレー権)と対価的関係にあるものです。

年会費の不払いに対しては、ゴルフ場経営会社が会員に対し除名等の懲戒処分を行うことが可能です(その旨の会則の定めが必要ですが)。

しかし、まずは年会費滞納者に対しては、催告を行い支払わせるということが基本的対応となるでしょう。

そして、上記の年会費の性質からすれば、年会費を支払うまではメンバーフィでのプレーは認めず、ゲストフィを支払ってもらうといった対応も可能だと思われます。

それでも支払いに応じない場合には、会則等に従った懲戒処分や、通常訴訟や支払督促、少額訴訟といった法的措置等により対応することになります。

 

年会費滞納による懲戒処分

年会費不払いを理由に会員を除名処分とすることは可能でしょうか。せいぜい十数万円程度の年会費の滞納で除名とすることは量定として重過ぎるでしょうか。

この点、消費者契約法10条は、「民法、商法その他の法律の公の秩序に関しない規定の適用による場合に比し、消費者の権利を制限し、又は消費者の義務を加重する消費者契約の条項であって、民法第1条第2項に規定する基本原則に反して消費者の利益を一方的に害するものは、無効とする。」と定めています。

消費者契約法は、個人と事業者を対象とする契約に適用されるものですので(但し、労働契約は除きます)、ゴルフ会員契約にも当然適用があり、会員の利益を一方的に害する処分は無効となります。

年会費は入会金や預託金等に比べて低額ではありますが、ゴルフ場の経営・運営に必要不可欠なものであり、年会費支払義務は会員の最重要な義務であると言えます。

そのため、年会費の不払いの場合に除名処分を行うということ自体は、会員の利益を一方的に害し、量定として重過ぎるとまでは言えず、一般的には無効とは言えないと考えられます。

しかしながら、会員契約上ゴルフ場経営会社が会員に対して負っている義務を履行していないときは、場合によって年会費不払いによる除名処分が無効とされる可能性がありますので注意が必要です。

この点、平成元年1月30日東京高裁判決は、ゴルフ場会社において果たすべき義務を怠っていると認められる場合には、年会費の納入を拒否しうる場合もありえると解されるという見解のもとに、①プレー権侵害の程度、②会社側が約束した会員数を守るべき義務の程度、③会員名簿を発行すべき義務の程度、④預託金返還を拒否した事実の存否を検討した上で、結論的には、会社側に義務違反が存せず、年会費の不払いを理由とする除名は有効であると判断しました。

これに対し、前記のような除名により預託金返還の問題を生じるゴルフ場の場合には、預託金返還問題の現実化を避けるために、年会費が支払われるまでの間、除名ではなく会員資格を一時停止するという処分も考えられるでしょう。

会員資格の一時停止と言っても、来場自体を禁止するというものから月例競技会への参加を認めないというものまでいろいろなパターンが考えられると思います。

但し、期間を定めない資格停止は、会員に与える不利益性から法的有効性に疑義が生じやすいと思われます。

 

除名処分の際の手続き

除名処分を行う際にはまず支払催告が必要です。

会則上、仮に「年会費を3ヶ月以上滞納した場合、催告なしで直ちに会員としての地位を失わせることができる」という規定があったとしても、民法上要求されている催告の手続きすら踏まずに行うと(民法541条)、消費者契約法10条違反として、除名処分が無効という判断がなされる可能性がありますので注意が必要です。

この点、6年間年会費を滞納した会員に対し無催告で除名処分を行った事案で、東京地裁は、支払催告をしない除名は無効であると判断しました(東京地裁平成3年10月15日判決)。

なお、年会費滞納を理由とする除名手続においては、他の除名事由の場合と異なり、年会費支払義務は財産的給付義務であり通常はその不履行に弁明の余地はないとして、会員に弁明をする機会を与える必要はないという見解もあります。

しかしながら、上記平成元年1月30日東京高裁判決が示すような状況を確認するという意味でも、弁明の機会を与え慎重に手続を行う方が無難でしょう(弁明は書面によるものでも構いません)。

催告をしても支払わない会員に対しては、年会費を2年分以上滞納している場合には、除名が可能とされる事例が多いものと思われます。

 

預託金の没収

年会費の滞納による除名処分が許されるとしても、預託金制ゴルフ場の場合には、除名(会員契約の解除)により預託金の償還義務が発生することになります。

一方、会則上、「除名の場合には預託金を返還しない(没収できる)」という規定を定めているゴルフ場もあるかと思います。

では、ゴルフ場経営会社は年会費を滞納している会員に対し、除名処分を行った上で預託金を没収することは許されるのでしょうか。

この点、十数万円程度の年会費の滞納で、数百万円から数千万円の預託金を没収することも、消費者契約法10条違反として無効とされる可能性が高いものと思われます。

そのため、仮に、預託金償還対策として、「年会費の滞納が長期にわたる会員は、ゴルフクラブから除名でき、預託金を没収できる」という規定を設けたとしても、預託金と年会費の相殺は可能ですが、預託金と年会費の差額を返還しなければならないという事態に陥ってしまいますので、十分注意が必要です。

 

支払督促と少額訴訟

上記のとおり、年会費滞納者に対しては、催告を行い支払わせるということが基本的な対応となります。

催告する際には最低限配達証明郵便を利用することが必須です。

民法上、意思表示は通知が相手方に到達したときに効力を生じるものとされているため(民法97条)、通知が相手方に届いたという証明が必要だからです。

それでも支払いに応じない場合には、法的措置も検討することになります。

もちろん通常の訴訟も利用できますが、年会費の支払請求の場合、請求額はせいぜい十数万円程度といったことが多いと思われます。

通常の訴訟の場合、申立手続費用(東京地裁で請求額10万円の場合、収入印紙1000円と予納郵券6000円分)に加え、弁護士に依頼する場合には、着手金として最低10万円が必要となります(旧東京弁護士会弁護士報酬会規による)。

そのため、手続費用が通常訴訟に比べて低額で、弁護士に依頼しなくても比較的対応が容易と思われる支払督促や少額訴訟の利用が考えられるでしょう。

支払督促とは、債権者の申立てにより、その主張から請求に理由があると認められる場合に、裁判所書記官から会員に対して未納年会費を支払うよう通知を出してもらう仕組みです。

債務者が2週間以内に異議の申立てをしなければ、裁判所は、債権者の申立てにより、支払督促に仮執行宣言を付さなければならず、債権者はこれに基づいて強制執行の申立てをすることができます。

支払督促は、相手の住所地を管轄する簡易裁判所の裁判所書記官に申し立てます。書類審査のみなので訴訟の場合のように審理のために裁判所に行く必要はありません。

手数料は通常の訴訟の場合の半額で済みます(東京簡裁で請求額10万円の場合、収入印紙500円、予納郵券1200円分)。

なお、債務者が支払督促に対し異議を申し立てると、請求額に応じ、地方裁判所又は簡易裁判所の通常の民事訴訟の手続に移行します。

一方、少額訴訟とは、民事訴訟のうち、60万円以下の金銭の支払を求める訴えについて、原則として1回の期日で審理を終えて紛争解決を図る手続です。

同一裁判所では年間10回までという制限があります。

原告の言い分が認められる場合でも、分割払や遅延損害金免除の判決がされることがあります。また、訴訟の途中で話合いにより解決することもできます(これを「和解」といいます)。

原告は、判決書又は和解の内容が記載された和解調書に基づき、強制執行を申し立てることができます。

 

預託金と年会費の相殺

なお、ゴルフ場経営会社側が預託金と年会費を相殺することも基本的には認められます。

もっとも、ゴルフ場経営会社による預託金と年会費の相殺の主張を退けた珍しい裁判例もあります(東京地裁平成19年4月25日判決)。

この事案では、ゴルフ場経営会社は、預託金据置期間を延長し、会員の退会申請に応じず、代償措置として年会費免除を申し出ましたが、会員は免除に必要とされる所定の手続きを取っていませんでした。

また、この会員は、年会費を支払わなくなる何年も前からゴルフ場を利用していませんでした。

東京地裁は、このような事実関係においては、被告(ゴルフ場経営会社)は、本件預託金の返還ができないという被告側の事情により据置期間を延長して、原告(会員)による被告ゴルフ倶楽部からの退会申請に応じず、その代償的措置として年会費を免除する旨を申し出ながら、免除通知書の不返送という手続上の不備を理由に、年会費の免除を受けるべき実質的理由があり、かつ被告ゴルフ場を利用しなかった原告に対して、年会費の支払請求を認めることは著しく公平に反するとして、年会費の請求は権利の濫用にあたり許されず、相殺もできないと判断しました。

「ゴルフ場セミナー」2013年9月号掲載
熊谷綜合法律事務所 弁護士 熊谷信太郎

熊谷信太郎の「消費者裁判手続特例法①」

アベノミクス効果により、今年の5月には、日経平均株価が5年4ヶ月ぶりに15,000円台を回復し(その後、乱高下を繰り返していますが)、全国の先行指標となる関東地区の主要ゴルフ倶楽部の平均会員権価格も、過去最安値とされる190万円に落ち込んだ政権交替前の2012年11月と比べ、4割以上も上昇しました。

バブル崩壊後の会員権値下がりに2008年のリーマンショックが追い打ちをかけ、多くのゴルフ場が預託金の返還問題に苦しんできました。

平成22年3月末までの法的整理申請件数は643件(既設ゴルフ場数ではおよそ800コース)に及びましたが、ここ数年の倒産件数は減少しており、預託金償還問題のピークは過ぎたという声もあります。

とは言え、会員権の市場価格は預託金額面には及ばず、依然として多くのゴルフ場が、事業を継続し会員のプレー権を保障しながら預託金の償還問題を解決する方法を模索しています。

本誌2012年11月号で連載した「抽選弁済」(毎年の一定枠を定め、その枠内の金額で、当選した会員に預託金を償還する方式)も一つの有効な方法です。

一方、ゴルフ会員権を預託金額面より安い価格で譲り受け、業としてゴルフ場に対して預託金返還請求を行い、差額を利得するという、いわゆる預託金償還ビジネスも横行しています。

このような状況下で、本年4月、悪徳商法の被害者に代わって特定の消費者団体が損害賠償請求を起こすことのできる消費者の財産的被害の集団的な回復のための民事の裁判手続きの特例に関する法律案(以下「本法案」)が国会に提出されました。

このとき、一部の新聞等で「消費者庁は、ゴルフ会員権の預かり金・・・などの事例を想定している」などと報道され、ゴルフ業界でも話題となりました。

これまで、ゴルフ場経営会社の中には、預託金の額面が低い場合には、訴訟費用とのバランスで裁判を起こされることはないだろうという見通しを持ち、この問題を先送りしていたというところもあるかと思います。

しかしながら、本法案の施行後は、既存のゴルフ場であっても、新たに会員を募集し会員契約を締結する場合には本制度の対象となり、消費者団体による預託金返還請求訴訟が起こり得ますので注意が必要です。

なお、本法案は施行後の消費者契約が対象となりますので、施行前の消費者契約が対象となることはありません。

そのため、上記の一部の新聞報道のように、ゴルフ場経営会社が、現在負担している預託金返還債務について、消費者団体による団体訴訟を受けることはありません。

 

これまでの預託金返還請求訴訟の流れ

預託金の償還問題は、ゴルフ場事業者の側からみれば預託金返還債務の履行(弁済)であり、会員の側からみれば預託金返還請求権の行使(債務の回収)です。

会員とゴルフ場経営会社との間で、預託金の返還についての合意(和解)が成立しない場合には、あくまで返還を求める会員は、ゴルフ場経営会社を被告として、預託金返還請求訴訟を提起する必要がありますが、裁判には相当の費用や労力が必要となります。

訴えを提起する場合には、訴状や証拠書類等を準備する他に、収入印紙と郵券(東京地裁の場合6000円分の切手、現金も可)が必要です。

収入印紙の金額は請求金額により決まっており、例えば、請求金額が300万円の場合には2万円です。

さらに、弁護士に委任する場合には委任状の提出と弁護士費用も必要となります。

弁護士費用については、旧弁護士報酬会規(東京弁護士会)によれば、民事事件の場合、経済的利益が㋐300万円以下の場合には、着手金8%、報酬金16%、㋑300万円超3000万円以下の場合には、着手金5%+9万円、報酬金10%+18万円、㋒3000万円超3億円以下の場合には、着手金3%+69万円、報酬金6%+138万円(但し、着手金の最低額は10万円)等とされています。

例えば、預託金額面が100万円の預託金返還請求訴訟を提起する場合には、収入印紙1万円、予納郵券6000円分、着手金10万円、報酬金16万円の合計27万6000円が最低限必要となるわけですが、鑑定費用などの実費が必要になる場合もあり、控訴すればさらに費用が必要となります。

そうすると、会員が個人で訴訟を起こすのは負担が大きいことになります。

 

消費者裁判手続き特例法案

これに対し、本制度の導入により、消費者はその被害を比較的容易に回復できるようになる見込みです。

本制度は、消費者と事業者との間では情報の質や量、交渉力に差があり、消費者が自らその回復を図ることには困難を伴う場合があることから、消費者契約に関して相当多数な財産的被害を集団的に回復する目的で、国が認定する消費者団体が事業者を提訴して、事業者に賠償請求を行うことを可能とする民事の裁判手続きの特例を定めたものです。

政府は本年4月19日に消費者裁判手続特例法案を閣議決定し、国会に法案を提出しました。

今国会で審議され、3年後の平成28年にも施行される見通しです。

なお、本制度は「日本版クラスアクション」と呼ばれることもありますが、米国等で立法例の見られるクラスアクション(集団訴訟のうち、ある商品の被害者など共通の法的利害関係を有する地位(クラス)に属する者の一部が、他の構成員の事前の同意を得ることなく、そのクラス全体を代表して訴えを起こすことを許す訴訟形態)とは異なります。

米国では、被害者であれば誰でも訴えることができ、ニュースでも取り上げられることが多いように、実際の損害額を大きく超える「懲罰的賠償」が可能です。

これに対し、本制度は裁判の原告や損害賠償の範囲をかなり限定しています。

また、本制度は裁判手続きを2段階に分けている点が大きな特徴です。消費者は、第一段階で団体が勝訴した訴訟のみ参加すればよく、敗訴リスクが低くなるわけです。

 

本制度の手続の流れ

(1)1段階目(共通義務確認訴訟)

まず一段階目として共通義務に関する審理がなされます。

この共通義務確認訴訟の原告となることができるのは、「特定適格消費者団体」だけです。

「特定適格消費者団体」とは、適格消費者団体(消費者契約法に基づき差し止め請求権を行使でき、現在全国に11団体あります)のうち、本訴訟制度の原告として、共通義務確認訴訟を適正に遂行できる体制や能力、経理的基礎等を備えていると内閣総理大臣によって認定された団体です。

第一段階においては、事業者が消費者に対し、これらの消費者に共通する事実上・法律上の原因に基づき、金銭を支払う義務を負うかどうかの確認が行われます。

(2)2段階目(個別の消費者の債権確定手続)

次に二段階目として、個別の消費者の債権確定手続(誰に、いくら支払うか)が行われます。

この手続を申し立てることができるのは、第一段階目の当事者となっていた特定適格消費者団体です。

そして、当該団体は、対象となる消費者に対して通知・公告(インターネット等も可)を行って、消費者からの個別請求権の届け出と手続遂行についての委任を受け、裁判所に対して、消費者の請求権についての届け出を行います。

このように届け出られた請求権については、請求額について争いのない消費者からの請求については、当該金額で請求権が確定します。

一方、請求額について事業者側が認めなかったものについては、裁判所が双方を審尋した上で請求権の存否・額について決定します。

この裁判所の決定について、双方から異議が述べられなければ決定通り確定することとなりますが、異議が出された場合には、通常の訴訟手続に移行します。

なお、通常の訴訟手続に移行した場合には、第一段階目の手続で認定された争点を除き、通常の民事訴訟と同様の審理が行われ、判決がなされることとなります。

 

救済対象となる権利

本制度は、その対象を少なくとも数十名以上の「消費者契約に関して相当多数の消費者に生じた財産的被害」に限定し(本法案1条)、事業者側の利益にも配慮しています。

そして、本制度の対象となる権利は、消費者契約に関する次の①から④に掲げる請求に係る「事業者が消費者に対して負う金銭の支払義務」です(本法案3条1号~5号)。

①契約上の債務の履行の請求(1号)

本法案によれば、事業を営んでいる者が事業目的ではない個人と結んだ契約は、ほとんど全て「消費者契約」に該当することとなります。

ゴルフ場経営会社と会員との間の会員契約も当然対象となり、会員契約の不履行に基づく訴訟が起こり得ます。

例えば、今年の5月、北海道勇払郡安平町のAゴルフ倶楽部が、700名近くいるとされる会員に案内することなく急遽閉鎖して問題となりました。

本件のようなケースでは、年会費の返還請求やプレー権侵害による損害賠償請求(損害の客観的評価は困難ですが)等が問題となります。

この場合、年会費の金額に比べて訴訟費用がかさむということで、会員個人が単独で裁判を起こすことは一般に困難だと思われますが、本制度により経営者に対する責任追及が比較的容易になります。

具体的には、㋐閉鎖の場合に年会費を返還するような規定があればその履行請求(1号)、㋑そのような規定がない場合には不当利得返還請求(2号)、㋒閉鎖に違法性が認められるような場合には不法行為に基づく損害賠償請求(5号)をしていくことが考えられます。

②不当利得に係る請求(2号)

現行法の下でも、英会話学校の中途解約料等について、不当に高額な解約料を定めたものと認定され、当該解約料の返還義務を認めた裁判例も複数存在します。

このような現状からすると、本制度が導入された場合には、低額なキャンセル料等を規定する約款等も無効となり、当該金額を返金するようにとして、本訴訟制度が活用されることが見込まれます。

そのため、ゴルフ場の会則等においても、無効とされるような規定が含まれていないか、問題点の洗い出しを行っておくことが必要となるでしょう。

③契約上の債務の不履行による損害賠償の請求(3号)・瑕疵担保責任に基づく損害賠償の請求(4号)

多数の消費者が購入した製品等について、同一の不具合が存するような場合です。

但し、その製品の不具合により、人の生命や身体、財産に損害が生じた場合(いわゆる拡大損害)は対象外です。

もっとも、ゴルフ場の売店で同一の不具合のある製品を多数の会員に販売するというようなケースは想定しにくいので、問題となることは少ないでしょう。

④不法行為に基づく民法の規定による損害賠償の請求(5号)

一般的に不法行為に基づく損害賠償請求と聞くと、慰謝料が問題となる事例が思い浮かぶと思いますが、本制度においては、精神的損害に対する賠償はその対象となりません。

「ゴルフ場セミナー」2013年8月号
熊谷綜合法律事務所 弁護士 熊谷 信太郎

熊谷信太郎の「ゴルフ場の会場遅延」

昭和63年に施行された総合保養地域整備法(リゾート法)の後押しもあり、バブル景気時代にはゴルフ場の建設ラッシュが起きました。

平成3年には年間で109コースが開場し、1990年代には日本のゴルフ場の総数は約2400超にまで増加しました。

しかし、バブル崩壊後はゴルフ場の開場は減少の一途を辿り、平成13年まで2ケタの開場が続いたものの、平成17年には新規開場はついにゼロとなりました。

一方、平成4年5月のいわゆる会員契約適正化法の施行により(後述)、開設許認可取得ができないことによる開場不能・開設遅延といった問題は、ほぼ解消されています。

このような状況で、本年5月、神戸市北区で建設中の神戸CC神戸コースが、法律で義務付けられた届け出をせずに会員権を販売していた疑いが強まり、経済産業省が調査していることが報道されました。

神戸CCは、当初の開発事業者が平成7年に開発許認可を取得し(未着工)、マミヤ・オプティカル・セキュリティシステムグループが平成20年3月に事業を継承しましたが、コース変更等により正式オープンが遅れている状態のようです。

本件ゴルフ場は、少なくとも8年前から1口4万円から120万円でゴルフ会員権を販売していたと報道されており、いわゆる会員契約適正化法(後述)による届出が必要となるはずです。

会員契約適正化法の窓口である経済産業省商取引監督課も「50万円以上の募集をしたのであれば募集届け出が必要。現在実態を調査しているところ」と説明し、違法性があれば業務指導をする方針だと報道されています。

また、ゴルフ場を開発する際には、森林法に基づく林地開発の手続き(後述)を取ることも必要ですが、本件ゴルフ場ではその手続きも完了しないまま、一部の会員にプレーさせていたことも判明しました。

兵庫県の行政指導に対し、開発業者は「営業ではなく会員権販売のための内覧会で、試し打ちだ」と説明しているようですが、内覧会であっても森林法に基づく隣地開発の手続きを取ることが必要です。

 

森林法に基づく隣地開発許可制度

無秩序な開発を防止し森林の適正な利用を図るため、森林法に基づく林地開発許可制度が設けられています。

1ヘクタールを超える森林の開発をしようとするときは、この制度の手続きに従って、都道府県知事の許可を受けなければなりません。

無許可で1ヘクタールを超える開発行為をした者、許可に付した条件に違反して開発行為をした者及び偽り、その他不正な方法で許可を受けて開発行為をした者等は、開発行為の中止や復旧命令などの行政処分を受け、罰則(150万円以下の罰金)が適用される場合もありますので注意が必要です。

さらに各都道府県の林地開発行為等の適正化に関する条例等に基づく手続も取る必要があります。

例えば、兵庫県の場合には、「森林における開発行為の許可、保安林の指定等の手続を定める規則」及び「森林法による開発許可事務取扱要綱」に従って、管轄の農林水産振興事務所へ相談しながら申請図書を作成することになります。

また、千葉県など林地開発行為について条例で違反行為に罰則も定めているところもありますので注意が必要です。

 

会員契約適正化法

一方、「ゴルフ場等に係る会員契約の適正化に関する法律」(いわゆる会員契約適正化法、以下「法」)は、ゴルフ会員権の乱売で社会的に注目された茨城カントリークラブ事件がきっかけとなり、平成4年5月に制定されました。

この事件は、茨城県の「茨城カントリークラブ」の開発会社が、ゴルフ会員権を2830名限定と偽って募集し、実際には5万2000人以上もの会員から金を集めて、約1000億円の資金を関連会社に横流ししたという悪名高い事件です。

本法の対象になるのは、会員が50万円以上の金銭(預託金、入会金等の名目如何を問いません)を支払い(分割払いの合計が50万円以上の場合も含みます)、ゴルフ場等の施設(ゴルフ場とそれ以外の施設の契約が一体となったいわゆる複合型施設も含みます)を継続的に利用する役務の提供契約です(法2条)。

なお、いわゆる株主制のゴルフクラブにおいてみられる株式の取得のために金銭が支払わられる契約は本法の対象となりません(平成5年5月19日付通商産業大臣官房商務流通審議官による通達)。

また、社団法人制のゴルフクラブも対象外ですが、社団法人が社員以外の会員種別を設けるなど新しい会員制度を取る場合には対象となる可能性があります(上記通達)。

さらに、既存の会員に対する契約変更の場合には本法の適用はありません(上記通達)。

例えば、ホール数等施設の変更をする場合において、新規の会員募集を行わず、既存の会員のみを対象として追加の預託金を支払わせる等の会員契約の変更を行う場合には、会員契約の締結と言えませんので、本法の対象とはなりません。

これに対し、追加募集は新たな会員契約の締結ですので、本法の対象となりますので注意が必要です。

 

規制の内容

①募集の届出(法3条)

会員制事業者は、会員募集に際し、事業者の概要、施設の計画、会員数等について、省令において定められた届出の要式に従って記載し、主務大臣に届け出なければなりません。

なお、「募集」には広告や勧誘行為等も該当し、それらの行為を行う前に届出を行う必要があります。

②会員契約締結時期の制限(法4条)

さらに、法4条は、ゴルフ場等の施設開設前の会員募集(会員契約の締結)を原則として禁止しています。

この規定により、開設許認可取得ができないことによる開場不能・開設遅延といった問題は、ほぼ解消されました。

なお、「開設」とは、建設工事が完了し、営業準備等も整い、会員が契約に基づき利用できる状態をいい、このような状態になっていれば、仮オープン等の場合のように、本オープンまでの期間も、既に開設していることになります。

③契約締結に当たっての書面による情報の開示等(法5条~12条)

会員制事業者等は、契約成立前及び契約締結時において、顧客に対し、会員契約の内容を説明した書面を交付しなければなりません。

その他、誇大広告や不実告知等の禁止、クーリング・オフ規定、書類の閲覧等の規制があります。

なお、本法のクーリングオフは、業者に落ち度がなくても、所定の期間内であれば何らの理由もなく無条件で契約の解除ができる権利であり、消費者契約法で認められる「事業者が不適切な勧誘行為をした場合に取消ができる権利」とは異なります。

④会員制事業協会の指定(法13条)

会員制事業者の自主規制努力を促すための業務(本法等の規定を遵守させるための指導・勧告・会員等からの苦情の解決、預託金等に係る債務の保証等)を行う指定法人(会員制事業協会)についての規定を設けています。

ゴルフ場に係る会員制事業協会には、(社)日本ゴルフ場事業協会が指定されています。

 

ゴルフ場の開場遅延と債務不履行

上記のとおり、法4条により、開設許認可取得ができないことによる開場不能・開設遅延といった問題は、ほぼ解消されています。

但し、㋐本法施行(平成5年5月19日)の前に会員契約に係る施設について、開発許認可を受けている場合、及び㋑本法の公布の日(平成4年5月20日)の前に会員契約の締結をしている場合には法4条の適用はなく、開場前の会員契約締結が許されることになります(法附則3条)。

さらに、㋒地方公共団体の開発許認可取得後に、会員制事業者が銀行等との間で、会員の拠出金の2分の1の返還債務の保証委託契約を締結し、ゴルフ場開発規制法令の諸許認可を得たときは、開場前であっても募集できます(法4条但し書き)。

これらに該当し、開場前に会員契約を締結したゴルフ場の開場が予定より遅延した場合、ゴルフ場経営会社はどのような責任を負うのでしょうか。

会員は、ゴルフ場経営会社との会員契約に基づいて、ゴルフ場経営会社に対し、優先的施設利用権(いわゆるプレー権)を有しています。

ゴルフ場のオープンの時期は、会員がゴルフ場施設を利用し得る時期であり会員にとって大変重要な事柄です。

そこで、ゴルフ場の開場が遅延したり、開場不能と言うべき状況に陥った場合には、会員は会員契約を解除した上で預託金等の返還を請求することができると考えられます。

ではこの場合、募集時のパンフレット記載の開場時期をどの程度遅延すれば、会員は会員契約を解除できるのでしょうか。

また、地震等による造成地の倒壊のような場合であっても、ゴルフ場は責任を負うのでしょうか。

 

平成91014日判決

この点が問題となったものとして、最高裁平成9年10月14日判決の事案があります。

本事案の概要は以下のとおりです。

会員Xは、昭和62年5月にゴルフ場経営会社Yとの間で預託金等納入して会員契約を締結しました。

その当時、ゴルフ場は建設工事中で、募集パンフレットには「完成昭和63年秋予定」と記載され、平成元年に開場することが予定されていましたが、ゴルフ場の建設工事は遅延し、平成元年中には開場することができませんでした。

その後、Yは、平成3年7月、視察プレーの名目でゴルフ場の営業を開始しました。

Xは、平成4年2月、Yに対して債務不履行を理由とした会員契約解除の意思表示を行いました。

その後、Yは、平成4年7月、ゴルフ場を正式開場しました。

その後、Xは、履行遅滞解除に基づく預託金等返還請求訴訟を東京地裁に提起し、一審ではXが勝訴しましたが、控訴審では原判決取消・請求棄却の判決が下されたため、Ⅹが上告しました。

最高裁は、①ゴルフ場を開場して債務を履行する義務は、いわば不確定期限というべきものだが、全く未確定なものではなく、当初予定されていた時期より合理的な期間の遅延は許されるとし、②Xが解除の意思表示をした時点では、既に視察プレーの名目の下における営業が開始され、近々債務の本旨に従った履行ががほぼ確実に見込まれていたというのであるから、債務の履行期が到来していたものと断ずることはできないとして、Xの履行遅滞による解除の主張は理由がないと判断しました(最高裁平成9年10月14日判決)。

 

ゴルフ場経営会社の帰責性が否定される場合

一方、開場遅延・不能がゴルフ場事業者の責めに帰することができない場合には、履行遅延や遅行不能による解除は認められません。

事業者のコントロールできない外来的・客観的要因に基づく地震や台風等自然災害による造成地の倒壊等がこれにあたります。

この他、造成中の土地から埋蔵文化財が発見されたようなケースも含まれると考えられます。この場合、文化庁は、一定期間工事の停止を命令することができるとされています(文化財保護法第4章参照)。

さらに、用地買収の遅延や景気の変動などの事情も含まれるかどうかは判断が分かれるところです。

「ゴルフ場セミナー」2013年7月号掲載
熊谷綜合法律事務所 弁護士 熊谷 信太郎

熊谷信太郎の「会員負担金」

本年2月1日、福井地裁において、ゴルフ場が会員に負担金の支払いを強制するのは不当であるとの判決が出されました。

これは、福井県のゴルフ場が会員に緑化事業負担金の支払いを義務づけたのは不当であるとして、元会員の男性が、①同負担金債務の不存在確認と②不払いを理由に差別的扱いを受けたことに対する慰謝料を求めたものです。

福井地裁は原告男性の請求を認め、ゴルフ場側に対し慰謝料10万円の支払いを命じました。

報道によりますと、ゴルフ場は2011年5月以降、記念誌発行や植樹推進などの費用に充てようと、緑化事業負担金として会員に1万円を請求したようです。

福井地裁は同負担金を「会員への対価性がなく、会則などの根拠を欠くもので、支払い義務を負わせることはできない」と判断しました。

ゴルフクラブでは、クラブハウスの増改築やコースの改造などの際、会員にこれらの費用の一部負担を求めることが時折ありますが、このような臨時的な負担について会員に支払義務はあるのでしょうか。

ゴルフクラブと会員の権利義務関係については、社団性の有無で妥当する法理が異なりますので、分けて検討したいと思います。

 

社団性のあるゴルフクラブの場合

社団とは一定の目的によって結集した人の集団です。

その代表格は「社団法人」ですが、それ以外にも「権利能力なき社団」というものがあります。

社団法人とは、社団のうち、法律により法人格が認められ権利義務の主体となるもの(法人)をいいます。

社団法人制ゴルフクラブは、日本における正統的ゴルフの普及・発展に尽くしてきた経緯がありますが、平成20年12月1日の新たな公益法人制度の施行により、公益法人としての存続が難しくなり、一般社団法人への移行を迫られています。

一般社団法人として法人格を取得すると、団体法的解決を図ることが可能となり、ゴルフ場と会員の権益を守ることができるという点が最大のメリットであると思われます。

一方、法人格を有しなくても、いわゆる「権利能力なき社団」として、団体自身が経済的・社会的活動を行っており、社団としての実質を備えていると認められるものもあります。

権利能力なき社団として認められるためには、「①団体としての組織をそなえ、②そこには多数決の原則が行なわれ、③構成員の変更にもかかわらず団体そのものが存続し、④しかしてその組織によつて代表の方法、総会の運営、財産の管理その他団体としての主要な点が確定しているものでなければならない」とされています(昭和39年10月15日最高裁判決)。

社団性のあるゴルフクラブの場合には、ゴルフ場と会員との関係は、団体の規範である定款や会則等の規定するところにより、規定がないか不十分な場合には、民法の組合等の規定により判断されます。

 

一般社団法人の機関

一般社団法人の場合には、社員総会のほか、業務執行機関としての理事を少なくとも1人は置かなければなりません。また、それ以外の機関として、定款の定めによって、理事会、監事又は会計監査人を置くことができます。

社員総会は、全ての社員(会員制度を設けている場合には、社員に該当する会員)で構成します。

一般社団法人における最高意思決定機関は社員総会(会員総会)であり、決算の承認、役員の選任・解任等、法人運営に関する重要事項を決定することができる機関です。

理事会を設置しない一般社団法人の社員総会では、法人運営に関する全ての事項について決議することができます。

一方、理事会を設置する場合において、定款で社員総会の権限について何も定めていない場合には、理事会に一定の権限があるため、その社員総会では法律で定められた事項しか決議できません。

理事会を設置する場合、定款において、社員総会で議決できる事項を増やすこともできます。

各社員は、それぞれ1個(1票)の議決権を平等に持っていますが、定款において、社員によって議決権の数が異なるように定めることもできます。

 

団体と構成員の関係

社員総会は、定款で特に定めのない場合には、社員(議決権)の過半数が出席することにより開催することができ、また決議は出席した社員(議決権)の過半数をもって行われることとなっています。

では、社員総会(会員総会)や、社員総会で選ばれた理事で構成される理事会において、会員に負担金を課す決議をした場合、会員はかかる決議に拘束されるのでしょうか。

あるいは、負担金を支払わない場合には、会則等に従い除名等の懲戒処分が認められるのでしょうか。

社団は、その構成員に対して一定の強制力を有しています。

社員総会(会員総会)は、多数決原理に基づいて活動するものであって、少数派はこれに服従すべきであることも、その本質的要請です。

そして、社団への入社(ゴルフクラブへの入会)は、この強制を受けることを認容したものと言わなければなりません。

しかし、社団の強制力には一定の限界が存することは自明であり、多数決原理によれば何でも可能となる訳ではなく、そこに限界のあることは疑いないところです。

社員総会(会員総会)の決議はオールマイティではなく、①決議の内容となる行為が定款に定める社団の目的の範囲内にあること(社団法人について民法43条)、②負担の目的・使途、負担金の額等から考えて、公序良俗に反するなど会員の協力義務を否定すべき特段の事情がないことが必要です。

例えば、ゴルフクラブが政治献金をすることはそもそも目的の範囲外の行為となると思われます。

これに対し、会員の優先的施設利用権の確保や利便性向上のための負担金については、目的の範囲内にあると考えられ、その金額が相当で会員の協力義務を否定すべき特段の事情がなければ、負担金の支払義務を認めてよいと思われます。

例えば、会員が予約を取りやすいようにビジターの予約枠を制限し会員の時間枠を増やす際、ゲスト収入の減少に伴う臨時の負担金を社団の構成員に求めるような場合や、地主から返還請求を求められた借地問題を解決しゴルフ場として存続を図るために会員に臨時的な負担を求めるような場合には、その支払義務を認めてよいのではないでしょうか。

これに対し、クラブ資産の運用上の投資の失敗やクラブ運営上の失態により損失を生じた場合には、まず担当理事や理事会の責任が求められるべきであり、安易に負担金を課すべきではなく、会員の協力義務を否定する特段の事情があると考えられます。

 

他の団体の裁判例

ゴルフ場の例ではありませんが、司法書士会の会員に阪神・淡路大震災の際の復興支援特別負担金の支払義務を認めた判例があります(最高裁平成14年4月25日判決)。

一審は、災害救援資金の寄付を「各人が自己の良心に基づいて自主的に決定すべき事柄」であるとして総会決議の効力を否定しました。

これに対し、最高裁は概ね以下のとおり判断し、復興支援特別負担金の支払義務を認めました。

①司法書士会は他の司法書士会との間で業務等について援助等をすることもその活動範囲に含まれる。

②本件拠出金の額(3000万円)はやや多額ではないかという見方があり得るとしても、大災害という事情を考慮すると本件拠出金の寄付は司法書士会の目的の範囲内にある。

③本件拠出金の調達方法についても、公序良俗に反するなど会員の協力義務を否定すべき特段の事情がある場合を除き、多数決原理に基づき自ら決定することができる。

④司法書士会がいわゆる強制加入団体であることを考慮しても、本件負担金の徴収は、会員の思想信条の自由等を害するものではなく、その額(登記申請事件1件につき50円)も社会通念上過大な負担を課するものではないのであるから、本件負担金の徴収について、会員の協力義務を否定すべき特段の事情があるとは認められない。

 

社団性のないゴルフクラブの場合

一方、日本のゴルフクラブの中には、会員によって構成される「団体」としての実質を有しない「擬似クラブ」であって、独立の法的主体となり得るような「社団」とは言えないものもあると言われています(最高裁昭和50年7月25日判決等)。

社団性のないゴルフクラブにおいては、会員の権利義務関係については、会員とゴルフ場経営会社との間の会員契約の内容をなす会則により定められると解されています(最高裁昭和61年9月11日判決)。

この点、本件福井地裁判決も、「社団性をもたない本件ゴルフクラブの会員の権利義務の内容について、会員とゴルフ場経営会社との間の会則等の定めによるのであって、会則等によることなくゴルフ場経営会社が会員に義務を負わせることはできないと解される」と判断しました。

そこで、本件の緑化事業協力金のような負担金が「その他諸料金」として、会員に支払義務を負わせる得ためには、まず、クラブ会則にその旨の規定があることが最低限必要となります。

 

双務契約における対価性

ゴルフクラブにおいては、クラブ会則に、「会員は、年会費その他諸料金を負担しなければならない」という規定を置き、会員に諸料金の支払義務を課しているところが多いと思います。

では、各種会員負担金は「その他諸料金」に含まれると考えられるのでしょうか。

双務契約とは、契約当事者双方が対価的性質を有する債務を負っており、給付と反対給付が対価的関係に立つ契約を言います。

そこで、これらの負担金が、「その他諸料金」に含まれるかどうかは、負担金が給付と反対給付との間で対価性を有すると言えるかどうかにより判断されることになります。

この点、結論としては社団性のあるゴルフクラブの場合と同様に、会員の優先的施設利用権の確保や利便性向上のための負担金は、その金額が相当である限り対価性が認められるので、負担金の支払義務を認めてよいように思われます。

これに対し、投資の失敗等、クラブ運営上の損失を会員に負担させるようなことは、対価性が認められず、会員に支払義務はないものと考えられます。

また、クラブハウスの増改築は、会員に施設を利用させる義務を負担するゴルフ場経営会社がなすべきことであり、会員は施設利用の対価として入会金や年会費を支払っているのですから、さらに負担金を課すことには通常は対価性が認められず、会員に支払義務はないケースが多いものと考えられます。

さらに、冒頭の福井地裁判決でも問題となった記念懇親ゴルフの費用や、協議会の協力金についても、参加者から参加費を取ればよいのであって、非参加者との関係では対価性は認められず、支払義務はないと言えるでしょう。

「ゴルフ場セミナー」2013年5月号掲載
熊谷綜合法律事務所 弁護士 熊谷 信太郎